【Prologue02】

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【Prologue02】

 高校二年生になり、彼が夢中になって飼育していたアクアリウムであるが、他の同級生は大学受験に向け、その頃から受験勉強をし始めたのだ。しかし彼は進学には全く興味が無く、ひとりアクアリウムの手入れに没頭していた。彼が高校二年生の頃、その当時の彼の成績は中ぐらいだった気がする。学校は県立の進学校ではあったが、彼の将来の夢は進学して大学に行き良い企業に勤めると言うより、アクアリウム関係のペットショップの店員にでもなれればと、その程度にしか考えていなかった。  また彼は彼の両親とは音信不通状態であり、母親の両親に育てられていたため、早く自立して生活しなければと言う思いが強かったのだ。他の生徒が受験勉強を本格的に開始した高校二年生の夏、彼は家の近くの図書館でアクアリウムに関する本を借りるため、図書館へと向かった。そして生物に関する本が置かれてある本棚を眺めていたのだ。すると、たまたま隣の本棚に心理学の本が置かれてあった。  彼は少し気になり、その心理学の本棚の片隅に目を向けたのだ。すると表紙の気になる一冊の本が彼の目に飛び込んできた。彼はおもむろに、その本に手を伸ばし取り上げたのだ。表紙には四角い枠で囲まれた箱の中に、砂が入っている写真が載っていた。また木や動物や人間などと言ったミニチュアの模型が、その砂の上に置かれていたのだ。その砂箱の写真が載っている表紙を、彼は食い入るように観ていたのであった。  すると彼はふと、幼少の頃に砂場でひとり遊んでいた時のことを思い起こした。そして、その本が誰によって書かれたものであるか確かめたのだ。すると直ぐに、河合隼雄の著書であることがわかった。彼は早速、その本を開いてみることにした。中を開くと、四角い枠で囲まれた幾つもの砂箱の写真を、彼は目にすることが出来たのだった。その時の彼は、まるで幼少時代に夢中になって遊んでいた砂場にいるかのような、そんな錯覚に陥ったのだった。書かれている内容を詳しく読み進めていくと、心理学の中でも箱庭療法と言う心理療法についての本であることがわかったのだ。  その時の彼はまるで、幼少時代に砂場でひとり遊んでいた頃にタイムスリップしたかのような錯覚と衝撃を受け、幼少期に砂場で遊んでいた時の、あの泥のような水を含んだ砂の感触が蘇って来た。これが彼と心理学の最初の出会いだった。心理学と言う彼の中に今まで無かった新たな道が開花したのは、ちょうど高校二年生の夏休みに入った暑い夏の日であった。彼は夏休みの期間中に足重に図書館へ通い、その夏の間に図書館に置いてある心理学の本を全て読み漁ったのだ。こうして彼は心理学の世界へと、のめり込んでいった。  彼は高校の授業には無く、大学で教えている心理学という分野に進みたいと強く思うようになったのだ。そのために彼は、大学受験の必修科目である「国語」と「英語」を勉強する必要があった。また選択科目として、「世界史」「日本史」「地理」「政治・経済」、また「数学」から一科目を選択する必要があったのだ。  彼が選択科目として選んだのは「地理」であった。何故なら、彼はアクアリウムについて世界各国のことを色々と勉強していたからだ。また単純に少しでもアクアリウムと関連のある勉強に思えたと言う理由からだった。こうして高校二年生の夏の終わりから、彼は本格的に大学受験の勉強をし始めたのだ。  彼は放課後、生物部のアクアリウムを手入れした後、学校の図書室に行き図書室が閉まるまで勉強した。彼は何時も図書室の決まった席で勉強していた。また彼には友達も殆どいなかったのだ。彼の高校は男女共学の高校ではあったが、女生徒と話す機会も殆ど無く、彼は女の子と話すのが得意ではなかった。それは彼の幼少時代の家庭環境や母親との関係もあるのだが、自分のこころを開くのが苦手で、特に女の子と話すのがとても苦手な青年であった。  彼が高校三年生になり、いよいよ十二月のクリスマスも近づいた頃、何時ものように学校の図書室で受験勉強していると、生物部の後輩から手紙を貰ったのだ。彼はその頃、もう生物部を引退しており、また彼の日課であったアクアリウムの世話も、後輩に引き継いでいた。しかし冬場になり、アクアリウムの世話についての相談かと思い、彼は生物部の部室に向かったのだ。すると待っていたのは後輩の女の子だった。彼は手紙の内容もあまり観ず、部室に入って行った。彼は当然、アクアリウムのことだろうと思っていたので、「アクアリウムがどうかしたの?」と、その後輩の女の子に声を掛けたのである。  すると後輩の女の子から、「好きです、付き合ってください」と言われ、彼は呆然としてしまったのであった。その時の彼には、ひとを好きになると言うことがどういうことか、理解できなかったのであった。だから彼の口から咄嗟に出た言葉が、「何で僕なの…」だった。彼には彼女の想いを受け止めるだけの愛情を今まで貰ったことが無い。そのため、彼自身どんな表情をしたらいいのかわからなかったのだ。そしてその冬のクリスマスは、彼にとってとても苦い経験をしたのである。  彼は両親からの愛情を知らない。また幼少期の母親からの影響もあったせいか、女の子と話すのが苦手で、クラスでも目立たない存在だった。ただ彼は純粋に、心理学という学問の道に進みたいとこころから思い、そのために一生懸命勉強したのだ。しかしこの頃の彼には、心理学を志すには欠落した部分を抱えていたのかも知れない。
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