【Session23】2016年01月07日(Thu)七草

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【Session23】2016年01月07日(Thu)七草

 午前中のカウンセリングを終え、学はカウンセリングルームにあるテレビをつけてお昼の弁当を食べていた。テレビのニュースでは七草粥を美味しそうに食べる小学生の映像が映し出されるのを観ることが出来た。  そう言えば学も小学生の頃、おばあちゃんが作った七草粥を食べて学校に登校した記憶がある。最近の家庭ではあまりこういった行事を行わない家庭も多いそうで、テレビの映像では大人から子供達へと昔からの行事を大切に教え伝えていることに、学がおばあちゃんから教わった頃のことを思い起こしていたのだ。 おばあちゃん:「マナブ、今日は何の日かわかるかい?」 倉田学:「何の日なの、おばあちゃん」 おばあちゃん:「今日は七草粥を食べる日なんだよ」 倉田学:「七草粥ってどう言う意味なの?」 おばあちゃん:「そうじゃな、今日が人日の節句(1月7日)にあたり、その朝に食べるお粥のことじゃよ」 倉田学:「じゃあ、七草って言うのは」 おばあちゃん:「春の七草は、せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ」 倉田学:「面白いね、おばあちゃん。九九みたいだね」 おばあちゃん:「昔から伝わる大切な行事だから、覚えておく必要があるのじゃよ」 倉田学:「ふーん、そうなんだ」  学は当時のおばあちゃんとのやり取りを今でもよく覚えている。しかし一人暮らしをしてからは、学も七草粥を食べることはない。そして日本の昔からの行事を蔑ろにして海外からの新しいイベントに飛びつく若者が多いことに、学は同じ日本人として少し残念に思うのであった。  そんなことを考えながら午後のカウンセリングも終わり、19時からのじゅん子ママのお店での出張カウンセリングに向かったのである。そしてじゅん子ママが待つ銀座にある『銀座クラブ マッド』へと入っていった。 倉田学:「こんばんは倉田です。じゅん子さんいますか?」 綾瀬ひとみ:「あら倉田さん。お・ひ・さ・し・ぶ・り♡」 倉田学:「ひとみさんですね。明けましておめでとう御座います」 綾瀬ひとみ:「残念って、今思ったでしょ!」 倉田学:「どうしてですか?」 綾瀬ひとみ:「だって、彩の人格じゃないから。あなた、わたしの人格が彩に統合されることを望んでるでしょ!」 倉田学:「僕は、君と木下さんがひとつの人格になることを望んでいるのであって、あなたの人格が木下さんの人格に統合されることを望んでいる訳では…」 綾瀬ひとみ:「倉田さん、去年のクリスマスぐらいから少し変わったんじゃない」 倉田学:「僕は別に君に対しても木下さんに対しても、ふたりの望みに答えるのが僕の役目です」 綾瀬ひとみ:「ふぅーん、それならいいんだけど…」  そう言ってひとみは、じゅん子ママを呼びに行ったのだ。そしてじゅん子ママが着物姿で現れた。 じゅん子ママ:「あら倉田さん。明けましておめでとう御座います」 倉田学:「明けましておめでとう御座います。じゅん子さん、着物姿似合ってますよ」 じゅん子ママ:「ありがとう倉田さん。今年はいい年になるかしら?」 倉田学:「それは日頃の行いかなぁ」 じゅん子ママ:「そうよね倉田さん。わたしにもいろいろと夢があるの」 倉田学:「どんな夢ですか?」 じゅん子ママ:「そうね、わたしはこの銀座で育てて貰ったから、銀座の街を元気にしたいな」 倉田学:「自分自身の夢ではないんですか?」 じゅん子ママ:「自分の夢は…。ひ・み・つ」 倉田学:「そうですか。でも、夢は言葉にしないと叶わないとも言いますが…」 じゅん子ママ:「相変わらず倉田さんって、何気に訊きだすのうまいんだから」 倉田学:「いちおうプロですから、話を訊くのは…」  こうして学とじゅん子ママのカウンセリングが始まった。彼女は地下鉄サリン事件(オーム真理教)の当日の朝に起きた出来事について、次第に鮮明なものへとなっていったのである。そしてその当時、彼女が愛していた男性が未だに意識不明であること、また同じ車両に乗り合わせたひと達が地下鉄サリン事件(オーム真理教)で今なお苦しい思いをしていることに対して、自分だけ幸せに生きることに罪悪感が強く現れたのだった。  それは一種の彼女のPTSD(心的外傷後ストレス障害)によるトラウマが介抱に向かう程、彼女の中で大きくなっていったのだ。そして彼女は地下鉄サリン事件(オーム真理教)以降、地下鉄に乗ることが出来ないでいると言う事実も明らかにされたのだった。  彼女は何度か地下鉄に乗るため地下にある地下鉄の改札に向かうものの、あの地下鉄サリン事件(オーム真理教)の当時の出来事がフラッシュバックして、その場に立ちすくみ、そしてしゃがみこんで動けなくなってしまうのである。  学は彼女のその時の状況をカウンセリングの中で再現し、そして今後彼女にどのようなサポートが出来るか考えていたのだ。そうしている間にあっという間に時間が経ち、学とじゅん子ママのカウンセリングが終わった。学がお店のフロアに出て来たその時、ちょうど透と遭遇したのだ。 樋尻透:「おぉー、倉田ちゃんじゃない。Happy New Year!!!」 倉田学:「明けましておめでとう御座います」 樋尻透:「つれないねぇー、倉田ちゃん。ことよろ」 倉田学:「今年も宜しく、お願いします」 樋尻透:「俺なんか悪いこと言った。ねぇー、倉田ちゃん」 倉田学:「僕は忙しいので、ここで失礼します」  そう言って学が店の出口へ向かって行くと、透はそれを塞ごうとして学の前に立ちはだかったのだ。その時だった。ひとりの女性が慌てて店に入って来た。そして何やら透の耳元で囁いているのが学には見えた。 今日子:「やっぱりここにいたのね。新宿のあなたの店に行っても居なかったから、ここに来たのよ」  この女こそ、透が幼い頃に透の家に放火した放火犯を探すよう透が依頼していた探偵の今日子であった。 樋尻透:「何で、こんなところまで来るんだよ」 今日子:「明日から神戸市内にいる放火犯を探しに潜入しに行くの。だからその報告をしに」 樋尻透:「その話は、ここではまずいから」  そう言うと透は学に向かって、さっきとは打って変わってこう言い放ったのだ。 樋尻透:「倉田ちゃん、何観てるんだよ。とっとと帰りな」  その言葉を聴いた学は安心して、新宿にある自分のカウンセリングルームへと向かったのであった。一方の透と探偵の今日子はと言うと、透は少し興奮気味に探偵の今日子に向かってこう言ったのだ。 樋尻透:「そうすると放火犯が見つかるかも知れないんだな?」 今日子:「うまくいけば、その可能性も」 樋尻透:「そしたら、俺もすぐに向かう。その時は連絡を頼む」 今日子:「わかったわ」  こうして探偵の今日子も、じゅん子ママのお店を逃げるように後にしたのであった。
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