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──本当は独りが好きなんだ、誰かと一緒に暮らすなんて無理だから。
ずっと自分のことしか考えてなかった、三十になったくらいに気の迷いで結婚したいと思ったけど、運良く相手が見つからなかった。
おかげでアラフィフの現在、自由気ままでストレスの無い生活を送っている。いや、いた、だな。
「どうかしたの」
文字通り猫なで声で背後から問いかけられた。
「なんでもない、お前と暮らしはじめたきっかけを思い出してただけだ」
リモートワークで自宅勤務している私は、作業を止めて椅子ごと回転して背後のベッドで寝そべっている相手にこたえる。
やわらかな曲線美に艶めかしい仕草、暇さえあれば毛づくろいをしている相手にため息をつく。
「今さらなんだけど、なんでうちに来たんだ」
きょとんとした顔をしたあと、くすくすと笑いながらからかうように言う。
「まあ興味本位よね、ネットを見てたら[化け猫もしくは猫又求む、できれば雌、当方男のひとり暮らし、たまにもふもふさせてくれるならあとの面倒は全部みます]なんてあったからさ。それでからかってやろうと思ったの」
たしかにそんな投稿をしたよ、たまたま体調不良で気弱になっていたから、話し相手とハグする相手が欲しかったからさ。
でも他人と暮らすなんて真っ平だから、化け猫ならいいかなと思って愚痴がわりにSNSにアップしたよ、本当に来るとは思わなかったけどな。
「突然行って、『ネット見て来ました、本当に全部みてくれますか』って言ってやろうと思ってね。それでからかうなって怒ったら、目の前で人から猫に変身して『残念でした〜』って言って逃げてやろうとしたの」
「そんなつもりだったのか」
「そしたら『何でもいいから入って』って言われるわ、手を出すかと思ったら、何にもせずにベッドに倒れ込むわで拍子抜けしちゃってさ、なんなのコイツって思ったわよ」
熱でふらふらだったからなぁ、どうでもいいやと思ってた気がする。
「で、驚かせたかったからそのまま待っていて、今に至ったというわけ」
「目の前で猫になった時は本当に驚いたよ、病み上がりで逃げたりする気力が無かったからそのまま受け入れたけどな」
それを聞いて悪戯っぽく笑うと、目の前で人型から猫に変身する。濡れた感じの黒毛が艷やかでまあ可愛い部類に入るかな。
起き上がり伸びをすると、ぴょいと飛んで私の両膝の上に座る。顔を見上げながらにゃあと鳴くと、人型に戻る。
長い黒髪に白い素肌、よくある獣人みたいに体毛に覆われてはいない、どうみても人間だ、それも美人の部類に入る若い女だ。
「じゃ、もふもふさせてあげるから面倒みてよね。それとももみもみの方がいいかな〜」
乳房を揺らしながらからかう同居人、いや同居猫又のみゃあさんの頭を撫でながら、この先どうなるのやらとため息をつくのだった。
ーー 了 ーー
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