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「はー、あいつ、落ちてきたバスケットゴールの下敷きになって死んだりしませんかね」
「校医のセリフとは思えないわ、先生。……というか、まさか見られてたとは思わなかったわ」
「見てしまったんですよー、ばっちりー」
先生は拗ねたときの喋り方をしていた。
スマホに表示させたニュースサイトを無意味に開いたり閉じたりしている。
「……先生のスマホケースかっこいいわよね」
機嫌をとろうとして言ったけど、先生は「これは高かったんですよ。仕事用として使ってるスマホのケースはヒビ入ってますけど」とちょっと素っ気ない調子で返してきた。
「そうなの? 見たいわ、そのケースも」
「それが現在進行形でスマホごと行方不明なんです。どっかに置いてきちゃいましたかね」
「え……。だ、大丈夫なの?」
一日のうち先生と会える時間は一時間半程度。
昼休みは短いし、帰宅後に自宅で課題をしなくてはいけないので放課後も遅くまで残れない。
それでは足りないのか、先生は校内で私をみかけると、写真に撮っては眺め、癒しを得ていた。
「ま、まさかとは思うけれど私の隠し撮り写真とかロック画面に設定していないわよね?」
「してませんよ。さっきも言った通り仕事用ですから。まあ写真は、非表示設定にしたフォルダに何枚か入ってますけど。疲れた時に眺められるように。でも、スマホのロックは指紋認証でしか開かないようにしてるので拾った人が見ることは不可能です。……ていうか、今はこの話いいんですよ」
思い出したようにプイとそっぽをむかれた。
ああ、せっかく話題がすり替わりそうだったのに……。
私はため息をついた。
いつもかくれんぼで見つけてもらえないので、先生は接待プレイを思い付いたのだという。
つまり私が探しにいった方角へ隠れれば、簡単に見つけてもらえる。
そう思って私の動向を陰から観察していたら、彼がやってきて告白現場を目撃してしまうって……。先生も運が悪い。
「鈴夏ちゃんは僕のものなんですけどねぇ」
「もう済んだことだしそんな風に怒らなくたっていいじゃない。私はきっぱり断ったわよ」
「あっそうですか、じゃあ鈴夏ちゃんは僕が知らない人に告白されても嫌じゃないんですね。へえぇ」
先生は一度拗ねると長い。
正直めんどくさい。
おもちゃを買ってもらえなかった幼児じゃないんだから……。
「どうしたら先生の機嫌は直るのかしら」
「鈴夏ちゃんが僕のお願いを一つきいてくれるっていうなら!」
明らかに冗談として発したのだろう、軽率で明るい言葉だった。
私は先生の予想を裏切るべく、拗ねている人間に効きそうな言葉をかけた。
「本当に聞くって言ったら?」
「僕は大人だから、そんなことで喜びません」
「へえ、顔がほころんでるわよ」
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