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「……なに?」
ひどく愛想が無いのは、まだ怒っているからだろうか?
でもこうして電話に出てくれたのだ。まだ希望はあるはずだ。
「あの……あのさ。この前は……ごめんな」
詫びるつもりなど無かったのに、声を聴いたらつるりと出た。
受話器の向こうから、はぁ、と大きなため息が聞こえる。
「本当にさ、悪いと思ってるのかな。毎回毎回さ、僕には何してもいいと思ってるんだろ?」
「そんなことないよ。でも優斗だから触れたいし、したくなっちゃうんだよ。本当にごめん……」
「…………」
「優斗?……」
「……そういうところだからな、僕が警戒してるのは」
「うん、……うん?」
話が見えなくなってきたが、ひとまず普通に会話ができてほっとする。早くこのビッグニュースを伝えなければ。喜んでくれるだろうか?
「あのさ、俺こんど、碧島ビエンナーレで作品が展示されることになった」
「…………え?」
「知らない? あおいじま……」
「知ってる!! 知ってるよ。片霧K透が島ごとアートディレクションする芸術祭でしょ。ネットニュースにもなったし大学でもみんな話してる。行きたいと思ってたよ!!」
電話越しでも伝わる優斗の興奮に、嬉しくなって俺もにんまり笑った。
「待って……それって、海外からも有名な人招待されてるし、K透の作品もたくさん展示されるんだよね? そこに健太郎が? 本当に?」
「そうなんだ。本当に。信じられないけど出してもらえるんだ」
『マジか!』とか何とか、優斗の悲鳴にも似た声にケータイを少し耳から話す。
「そっかあ、そっかあ、でもそうだよな、すごいコネだな。片霧K透そういうことしないと思ってたけどな」
「あ……」
ひとり言のように何気なく落とされた優斗の言葉がずしりとのしかかり、俺は言葉を失った。
コネ。そうか……世の中にはそう言われるだろうな。実際そうなのかもしれない。
これまでもそうだったけど、注目されればもっと悪意にさらされるだろうし誹謗中傷されることもあるだろう。俺に耐えられるだろうか?
それでも、やらなければならなかった。
そう決めたのだから。
ケースケさんの評価を裏切らないように。いや、これからその評価以上のものを世の中に見せつけていかなければならないんだ。
「なんてね。健太郎ならそれ引き寄せるくらいの力あるだろ? きっとすごい作品つくったんだね。あー待ちきれない、早く見てみたいよ! マジでおめでとう!」
俺はその時、思考に沈んでいて、優斗の言葉が入ってこなかった。
「それはそうと、一つお願いがあって…………健太郎、聞いてる?」
「え? ……ああ、うん」
あわてて優斗の『お願い』とやらに上の空で返事をする。
曰く、ケースケさんに会ってみたいのだという。事務所に遊びに行ってもいいかと。高校時代にはあれ程馬鹿にしていたのに、急に考えが変わったのだろうか?
一旦電話を切ってから、ケースケさんに確認すれと、最初は「えー学生の相手なんてしてらんねー」と渋っていたが、来るのが優斗だと知ると、「あ、『ぽこちんくん』に会えるの? オッケーオッケー」と目をキラキラさせていた。悪い予感がする。
再び電話をかけ、ケースケさんに了承をもらった事を伝えれば、優斗は随分喜んでいた。本当に、アンチと言っても良いくらいぼろくそ言っていたのに、いつの間にファンになったのだろう?
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