13. 決意と変化

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ああ、だけど、優斗に久しぶりに会える。 その後のバイト中も嬉しくて、調子っぱずれの鼻歌を歌いながら段ボールを解体していたら、「めずらしい」と近藤さんに笑われた。聞かれていたのか……。赤くなった顔をこする。 今度は絶対間違えない。うまくやる。 優斗の事を思えば、きゅっと絞られるように胸が痛んだ。 最近ではもう慣れた痛みだ。 痛いのに、体は軽い。風船になったみたいだ。これが『浮かれた気分』って言うのだろうな。俺はその気分を、大切に、じっと深くかみしめていた。 優斗が来ると言っていた日、予備校が終わり急いで事務所に行くと、ケースケさんに呼ばれた。見るとケースケさんは、本格的な一眼レフカメラを構えている。レフ板を持った近藤さんもいた。 「『アー写』撮るぞ!」 は? 何の事だか分からず、ぽかんと聞き返した。 「プロフィールの写真だよ。碧島のウェブサイトに載せるの、必要だろ」 「はぁ、俺のっすか?」 「他に誰がいるんだよ。ほら、壁の前に立ってみて……そう、そう」 言われるままに立ち尽くす俺を、ケースケさんは続けざまにカメラにおさめていく。 「ちょっと、コンちゃんの方見て」言われて顔を向けると、近藤さんと目が合い笑ってしまった。その間もシャッターは切られていく。 「今度は、俺をにらみつけて、そう、もっと、そう、そう、そう……よし、オッケー」 短い時間だったが、そんなに必要なのかと疑問に思うほど写真を撮られた。 いまさらながら、こんな着古したTシャツと、整えていない頭で見栄えは大丈夫なのか心配になってくる。 さっそくパソコンにつないでチェックしているケースケさんを、近藤さんが後ろから覗き込んで言った。 「これは……ちょっと、すごいですね」 「……だな。むかつくよな……」 二人は画面を見て、渋い顔をしてる。 「俺にも見せてくださいよ」と後ろから画面を覗き込むと、俳優みたいにすました顔の俺がいた。 「やー恥ずかしいっすね。でもやっぱすげえな、ケースケさん写真もいけるんすね。かっこよく撮ってもらってありがとうございます」 照れ笑いで言えば、ケースケさんに嫌な顔をされる。 「健太郎くん、絶対モデルとかやんなよ。私、友達の事務所に紹介したげるよ?」 「いやー、俺なんかイケますかね? 興味ないんですぐ嫌になっちゃいそうですけどねー」 近藤さんと和気藹々(わきあいあい)と話していたら、ぼそりと「いやなヤツ……」とつぶやく声が聞こえた。それきりケースケさんの機嫌は急降下する。 そんな時、入口のガラス戸が開く音がした。 「あの……こんにちはー……」 優斗の声だ。急いで、小走りで迎えに行く。 対応に出た矢野さんに、「あ、友達なんで」と説明した俺の足がぴたりと止まった。 や、と小さく手を振る優斗は緊張気味だ。だが一人ではなかった。 その後ろに、同じく緊張した面持ちの友達らしき人物が二人いる。 一人は、この前大学で見かけた莉子(りこ)という女だ。もう一人は知らない。 なんで? 視界がきゅっと狭まる感覚がした。 友達と一緒だと言っていただろうか? いや、はっきりと覚えていないが、電話ではそんな話じゃなかったはずだ。でも、一人だとも言っていなかったか……。 「あのー、お邪魔しちゃってすいません。よろしくお願いします」 莉子が言うと、あわせて素性の知れない男もぺこりと頭を下げる。 「あ、ああ、じゃあ……そちらへ……」 動揺を隠して、とりあえずケースケさんのいるスペースへ三人を案内する。
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