13. 決意と変化

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最後に俺と歩き出した優斗は、子供みたいに目を輝かせて「かっこいいね、テレビで見たことある、片霧K透の事務所。わっ、まじか! アイスエイジシリーズのあれ美術館で見たことある。本物? 本物置いてるのかな、防犯ヤバくない?」と小声で言ってきた。 ――いやいや、ちがう。そうじゃないだろ? 何で一人で来ない? 俺はお前ひとりに会えるのをすごく楽しみに待っていたのに。 お前はそうじゃないのか? 問い詰めたくなるのを、ぐっとこらえる。 そして、引き続き不機嫌丸出しで写真をチェックしているケースケさんに声をかけた。 「……あの、この前お願いしてた、友達が来たんですけど。少しだけいいですか?」 「あ? 今忙しい。見りゃわかんだろ。お前のめっちゃかっこいい写真選んでやってるから忙しーの」 ケースケさんは一瞬こちらに視線を流すだけで、再びパソコンをいじりだす。愛想のかけらもないその対応に、そばで見ていた優斗たちは震えあがった。 タイミングが悪かったか。でもこうなってはどうしようもない。 だが、急に何かを思いついた様子でケースケさんが顔を上げた。 「あ! そうだ、『ぽこちんくん』ってどの子?」 到底いい大人の口から発せられたとは思えない卑猥なワード。 俺はこめかみをもみ込んだ。この人、大丈夫か? 「ケースケさん、何言ってんすか! そうじゃなくて優斗(ゆうと)。優斗はこいつです」 俺に指さされて訳も分からずおびえる優斗を見て、ケースケさんはにやにやと笑う。そしてソファから立ちあがると、いきなり彼の両手を握った。 びくっと大きく体を震わせた優斗の顔は真っ赤だ。 「いやー! はじめまして。会いたかったよー。君ね、君が噂の優斗君。君がからむと健太郎が面白くなるんだ。これからもどんどん、どんっどん振り回してやってちょうだいね!」 「へっ? はい?」 「ちょっ!! ケースケさん!」 困り顔の優斗と、慌てる俺を見て、ケースケさんは心底面白そうな顔をしている。それから俺に見せつけるように優斗の肩に手を回すと、親密な距離で話し出した。 「これからも遊びに来てね? 待ってるから。アトリエも見ていく? まだ健太郎のも置いてあるよ? 来週搬入しちゃうからラッキーだね」 ちらっと横目で俺を見て笑うケースケさんを、俺は、どうせ冗談だろうと受け流す事ができなかった。 煽られている事は分かっている。だけど、親し気に誰かが触れているのを見せつけられて、どこかで頭のねじが飛んだ気がした。イライラが治まらず、ぐっと拳を握りしめる。それでもどうしても我慢できなくて、今にも二人を引き離そうと飛びかかろうとした時、大人しくしていた優斗の友達が突然声を上げた。 「あのっ! 僕、片霧さんの大、大、大ファンなんです!」 皆の視線がその男に集まる。それだけで肩で息をついている彼は、あまりの緊張でパニック寸前といった様子だ。 「かっ、片霧さんは本当の天才だと思っています。日本美術界の宝です! 友達が知り合いだって聞いてっ。それで、どうしても一目お会いしたくて……あの……お会いできて光栄ですっ……ううっ、う」 そうして感極まったのか泣き出した男を、全員があっけにとられて見ていた。 たまにこういう熱狂的なファンはいる。面倒くさそうだと遠巻きに見ていて思うが、ケースケさんはそうじゃない。案の定、ケースケさんの機嫌は急上昇で回復した。基本的に賞賛されるのが大好きなのだ。 「ああ! そう! じゃあ、君たちもアトリエ見てく?」おいで、おいでと皆を引き連れていくケースケさんの後に続く。 だが最後尾の俺は、莉子という女がこっそり優斗に耳打ちした言葉が聞こえて、足が止まった。
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