13. 決意と変化

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「やった! アトリエまで見せてくれるってラッキーだね。やっぱり優斗にお願いして良かったよ」 「ううん。友達だもん。出来る事なら言って」 「あの人怖い先輩の知り合いでさぁ、頼まれて断れなかったんだ。マジで優斗、友達でよかった! マジでありがとうね、今度学食おごらせて!」 「いいって、たいしたことじゃないし」 にこりと誇らしげに笑い返す優斗の顔を呆然と見る。 ――なんだ。お前が来たかったんじゃないのか……。 そうわかって、急に体の力が抜けた。 お前の為にと思って。 お前が喜ぶならと思っていたのに。 お前じゃなく、友達の為にやらされたのか。 なんだ、浮かれて損したな。 なんだ…………。 …………。 変化は劇的だった。 突然ラジオのボリュームを絞るみたいに、周りの音が聞こえなくなる。 聞こえてはいるが、何も頭に入ってこない。 見えてはいるが、意味を理解できない。 まるで非常用電源に切り替わるみたいに、最低限の機能を残して脳みそが停止してしまったようだ。 周りの反応は変わらない。外からはかろうじて普段通りに見えているようだが、俺から見える世界はがらりと変わってしまった。 思い起こしても、そこから後の事は断片的だ。 アトリエに上った後、俺の作品を見た優斗と他の二人は声を失い。それからすごい作品だと、俺をたいそう褒めていたらしい。俺の目は確かだったと、自慢げに話すケースケさんから聞いた。 予備校に通い、バイトに行き。そうして日常生活を繰り返す事は出来た。 だが、何の感情も湧いてこない。もちろん何かを造りたいと思う事なんてない。 そうして、まずいことに段々と食欲も無くなってきていた。 この状態には覚えがある。ずっと恐れてきただ。 また俺は周りに関心を持てなくなってしまったのか? だとしたら早く何かみつけなければならないのに、気がついて焦っても、体が動いてくれなかった。 底の無い、泥水の中にゆっくり体が沈んでいく。 じわじわと、俺はまた、自分が消えてしまうのではないかと、おびえる事しかできなくなっていった。 そんな時、優斗からメールが届いた。 『碧島ビエンナーレのホームページ見た! 健太郎めちゃイケメン』 「…………」 ああ、この前の写真が掲載されたのか、そういえばと机の上を見る。 昨日出来たてのパンフレットをもらったんだっけ。 確か、明日から搬入で現地に向かうのだった。泊りの準備をしなければ……。 のろのろとスマホを手に取り、簡潔に返信を打ってベッドに放る。 『パンフレットできた。明日から碧島行ってくる』 何も感じないはずなのに、胸の奥底に痛みが走った気がした。 それが苦痛すぎて、これ以上大きくならないように、出来るだけ考えないように蓋をする。 だが、すぐに優斗から返信があった。 『マジ? それ見たい! 今から行っていい? 家の人いる?』 あんな目にあったのに、家に来るっていうのか? いつもより理解するのが遅くなっている自覚があるので、読み間違いじゃないかともう一度その短い文を読み返す。 こういうのを飛んで火にいる夏の虫って言うのに。馬鹿なのか? 俺の事をあなどっているのかな? いや、きっと信用しているのだろう。だったら本当に馬鹿なんだな。 やめてくれ。これ以上考えたくない。 そして俺は、もう一度返信して毛布にくるまった。 『だれもいないよ』――と。
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