145人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は休ませることなく優斗に圧し掛かると、ぽかりと開いたまま真っ赤に腫れたそこに再びねじ込んだ。
「……ひっ…………」
短く絶望の声を上げた優斗に構わず、両手を彼の頭の横について閉じ込め、ひたすら欲望を打ち付ける。
もう射精しそうに高まっているが、まだつながっていたくてぎりぎりまで我慢した。
とうとう耳鳴りがし出し限界を迎えた俺は、自分が発した獣のような咆哮を遠く聞いた。
同時に、世界が真っ白になる強烈な快感の中で、優斗の中に吐き出した。
はっ、と覚醒した時、見慣れた部屋は薄明りの中だった。
時計を見れば、まだ朝早い。
おやじは帰ってきただろうか? 気配はない。干渉されはしないだろうが、もし何か聞かれていたら少し面倒なことになりそうだ。
あれから俺は、何度吐き出したのだろう?
今までの思いを出し切るように交じり合い、気が付けば何時間も耽っていた。
体中がぺたぺたとして、ひどく気持ち悪い。だが心は満たされていて、うとうととまた眠りに引き込まれそうになった、が――飛び起きた。
優斗は?
優斗はどこだ?
ベッドにはいない。まさか、ぜんぶ夢だとか言わないよな?
ふと見れば、ドアの前の床の上に、優斗が倒れていた。
慌てて駆け付けようとしてシーツに足を取られ転ぶ。そのままシーツを纏いつかせて急いでそばに行った。
ひどい音を立てたのに反応しない優斗の顔を、膝をついてうかがう。
「……ゆうと」
呼吸を確認してから小声で呼びかければ、優斗の眉が苦しそうにぴくりとしかめられた。
ほっと胸をなで下ろす。
びっくりした。
鼓動はまだ、激しく打ちおさまらない。
見つけた時、死んでいるのかと思った。再びその時の感覚がよみがえり、ぞわりと鳥肌を立てる。
俺はそっと優斗のかたわらに座り込み、改めてその姿をじっと見た。
薄暗いカーテン越しの光の中、色の白い優斗は、ぼんやり発光しているようだ。
白いからだのそこかしこに、付けた印がうっ血になって残っている。色の薄かった乳首は赤くなったまま、痛々しく擦り切れ、腫れたままになっていた。
尻からは注ぎ込んだ精液が流れだし、乾いて、みすぼらしく内腿に筋を描いている。
情事が過ぎ去った朝の光の中では、痛々しすぎる姿だった。
最後に顔を見れば、紙のように青白く、眼の下にはくっきりと青黒い隈。そして、涙の跡が顔を汚していた。
何度も涙を流して『もうやめて』と乞われたのに、俺はやめられなかった。
「…………」
震える手でそっと優斗のすべらかな頬をなぞる。
鼻の奥がツンと痛くなり、やがて自分の頬が冷たく濡れる感触がした。
俺は膝に顔をうずめ、ぎゅっと小さくうずくまり、嗚咽した。
「…………なんだよ、これ」
何が一つになりたいだ?
壊れることを恐れていた自分が、自分の為に優斗をぶち壊してしまった。
この惨状に後悔したってもう遅い。俺の中に確かにあった欲望の声にしたがった結果がこれだ。言い訳できない。
優斗が起きた時何と言うのか? どう反応するのか?
怖くて想像すらできなかった。
はっきり分かるのは、もう戻れないという事だけ――。
絶望が押し寄せる。
これまで、ままならない自分自身に感じていた失望など生易しい。自分が到底許せない。許せない自分を切り離せない事に、心底生きているのが嫌になった。
「俺は……疫病神だよ」
「優斗にとっては、全く、疫病神でしかないんだよ……」
ひとしきり泣いてゆっくりと立ち上がる。
音もなく着替えを済ませ、明日の碧島行きの為に準備していたバックパックを取り上げた。
――そうして俺は、卑怯にも、逃げだした。
最初のコメントを投稿しよう!