14. お前を壊してしまうほど

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俺は休ませることなく優斗に圧し掛かると、ぽかりと開いたまま真っ赤に腫れたそこに再びねじ込んだ。 「……ひっ…………」 短く絶望の声を上げた優斗に構わず、両手を彼の頭の横について閉じ込め、ひたすら欲望を打ち付ける。 もう射精しそうに高まっているが、まだつながっていたくてぎりぎりまで我慢した。 とうとう耳鳴りがし出し限界を迎えた俺は、自分が発した獣のような咆哮(ほうこう)を遠く聞いた。 同時に、世界が真っ白になる強烈な快感の中で、優斗の中に吐き出した。 はっ、と覚醒した時、見慣れた部屋は薄明りの中だった。 時計を見れば、まだ朝早い。 おやじは帰ってきただろうか? 気配はない。干渉されはしないだろうが、もし何か聞かれていたら少し面倒なことになりそうだ。 あれから俺は、何度吐き出したのだろう? 今までの思いを出し切るように交じり合い、気が付けば何時間も(ふけ)っていた。 体中がぺたぺたとして、ひどく気持ち悪い。だが心は満たされていて、うとうととまた眠りに引き込まれそうになった、が――飛び起きた。 優斗は? 優斗はどこだ? ベッドにはいない。まさか、ぜんぶ夢だとか言わないよな? ふと見れば、ドアの前の床の上に、優斗が倒れていた。 慌てて駆け付けようとしてシーツに足を取られ転ぶ。そのままシーツを纏いつかせて急いでそばに行った。 ひどい音を立てたのに反応しない優斗の顔を、膝をついてうかがう。 「……ゆうと」 呼吸を確認してから小声で呼びかければ、優斗の眉が苦しそうにぴくりとしかめられた。 ほっと胸をなで下ろす。 びっくりした。 鼓動はまだ、激しく打ちおさまらない。 見つけた時、死んでいるのかと思った。再びその時の感覚がよみがえり、ぞわりと鳥肌を立てる。 俺はそっと優斗のかたわらに座り込み、改めてその姿をじっと見た。 薄暗いカーテン越しの光の中、色の白い優斗は、ぼんやり発光しているようだ。 白いからだのそこかしこに、付けた印がうっ血になって残っている。色の薄かった乳首は赤くなったまま、痛々しく擦り切れ、腫れたままになっていた。 尻からは注ぎ込んだ精液が流れだし、乾いて、みすぼらしく内腿(うちもも)に筋を描いている。 情事が過ぎ去った朝の光の中では、痛々しすぎる姿だった。 最後に顔を見れば、紙のように青白く、眼の下にはくっきりと青黒い(くま)。そして、涙の跡が顔を汚していた。 何度も涙を流して『もうやめて』と乞われたのに、俺はやめられなかった。 「…………」 震える手でそっと優斗のすべらかな頬をなぞる。 鼻の奥がツンと痛くなり、やがて自分の頬が冷たく濡れる感触がした。 俺は膝に顔をうずめ、ぎゅっと小さくうずくまり、嗚咽(おえつ)した。 「…………なんだよ、これ」 何が一つになりたいだ? 壊れることを恐れていた自分が、自分の為に優斗をぶち壊してしまった。 この惨状に後悔したってもう遅い。俺の中に確かにあった欲望の声にしたがった結果がこれだ。言い訳できない。 優斗が起きた時何と言うのか? どう反応するのか? 怖くて想像すらできなかった。 はっきり分かるのは、もう戻れないという事だけ――。 絶望が押し寄せる。 これまで、ままならない自分自身に感じていた失望など生易しい。自分が到底許せない。許せない自分を切り離せない事に、心底生きているのが嫌になった。 「俺は……疫病神だよ」 「優斗にとっては、全く、疫病神でしかないんだよ……」 ひとしきり泣いてゆっくりと立ち上がる。 音もなく着替えを済ませ、明日の碧島(あおいじま)行きの為に準備していたバックパックを取り上げた。 ――そうして俺は、卑怯にも、逃げだした。
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