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「文字が読めないと、いかに大変かが分かったね」
いつものエレン先生の口調に戻った。
「さっきまではあんなにスラスラ注文できていたものが、何ひとつとして頼めなかった。これは僕たちが日頃いかに文字に頼って生きているかって。その証明だ」
文字が読めなくて苦しんだことある?の問いに、全員がないと答えた。
「それはそうだ。なんせ日本の識字率は九十九パーセントだからね。識字率っていうのは文字の理解や読み書きができる人の割合のこと。世界にはね、十人のうちたったの三人しか文字を読めない国もあるんだ。学校に行けなかったり差別だったり戦争だったり。理由はさまざまだよ」
想像してみて。エレン先生は手を広げる。
「風邪をひいたおばあさんが、病院にお薬をもらいに行きます」
果林、と児童の名前を呼ぶ。
「このおばあさんは全く読み書きができません。何に困るかな」
ふーむと彼女は考える。
「受付がどこか分からない」
「あとは?」
「問診票が記入できない」
「それから?」
首を傾げる彼女にエレン先生は、こう聞いた。
「そもそも病院にはすんなりと行けたのかな?」
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