美しい双子

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 そして、六年生の夏のことだ。短期間のバイトで男子大学生が先生としてやってきた。夏休みの間はスクールが昼間に行われることや、短期で通う子供が増えることもあって、毎年一人か二人先生が増えた。大体手の掛からないクロールが泳げるようになったくらいの六級の子たちを指導することが多いのだが、その年はいつもと少し違った。  その大学生――田沼先生は高校時代全国大会に出場してベスト8に入ったという実力者だったのだ。交通事故の怪我が原因で高校三年で引退してしまったそうだが、大学では指導者を目指して勉強しているのだという。そのため、毎回地区大会止まりの凛々を始め、一級の子たちを中心に教えることになった。  また、田沼先生は身長が高くスイマーらしく逆三角形の引き締まった身体をしていた。女子はいつも田沼先生のことでキャーキャー言って騒いでいた。  バタフライの練習をしている四級の僕は、先生と関わる機会は凛々と間違えられて話し掛けられるくらいしかなかったが、とても爽やかな好青年という印象だった。  凛々はというと、僕とは対照的だった。元々彼は手を抜く癖があるのだけど、田沼先生に教わるようになって「スパルタだ!」と毎回帰り道に文句ばかり言っていた。 「真面目に指導してくれているんだから、そんなこと言ったら悪いよ。田沼先生いい人じゃない」 「路紗はダラダラ四年生とバタフライ教わってるからそんなこと言えるんだよ! 教わってみないと分からないこともあるんだから!」
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