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期待しなかったわけじゃなかった。いや、始めからこうなればいいと思ってここに来た。この二年、僕が自分を慰める時、大和を想像しなかったことはなかったのだから。
「……いいよ」
僕の返事に大和は満足げに笑みを浮かべると、焼き鳥に手を伸ばした。
同窓会が終わり二次会に向かう集団を見送った後、僕は大和と駅とは反対の方向に歩き出した。
「それにしてもお前、今日やたら静かだったな」
ぎくりと肩を震わせて、「そう?」と素知らぬ振りで返事をする。
「結構酔い回ってんじゃね? 大丈夫かよ?」
「だ、大丈夫」
「俺は別にマグロでもいいけど、途中で吐くのだけは勘弁しろよな? 流石に萎えっから」
僕は「酔ってないよ」と言って顔を伏せた。好きな人を目の前にして――それもこの後のことを考えてしまっては――、饒舌になれはしない。
少し歩いた後、怪しいネオンの看板の前で立ち止まった。その看板の文字を見た瞬間、心臓が飛び出しそうになる。
「ショートステイ四千円か。無人っぽいし、ここでいいよな?」
これがラブホテルか、と顔を強張らせて店先の料金表をじっと見詰めていると、唐突に大和が笑い出した。
「俺が誘ったんだし全額持つに決まってんじゃん。ま、給料日前で金あんまないから、安いとこで悪いけどさ」
大和が顎で「行くぞ」と示して、先にホテルに入っていく。その後ろについて慌てて入った。
想像では薄暗く雑居ビルのような感じなのかと思っていたが、中に入ると、白とグレーを基調にした落ち着いた内装のロビーで、マンションのロビーと大差が無かった。
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