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ロビーにはソファがあって、その前にタッチパネルが設置されていた。大和は慣れた手つきでパネルをタッチし、画面に映っている部屋の一つを選んだ。天蓋付きのベッドの少し可愛らしい内装の部屋だったが、値段が安い部屋がここしか空いていなかったのだろうか。
「302だってさ」
大和についてエレベーターに乗り、三階で降りた。斜め前の部屋のドアに「302」という金のプレートが付いている。大和がドアを開けて僕を振り返った。
「何してんだよ、オートロックだぞこれ」
「ごめん、ラブホテル来るの久々で……」
嘘で誤魔化して部屋に入り、背後でドアが閉まる音がする。
「四千円にしてはいい部屋だな」
靴のままで上がるタイプの部屋らしく、先に大和が入っていかなかったら靴を脱いでいたところだ。
「どうする? 先シャワー浴びる?」
「えっ……」
まるでネトゲで周回中に休憩挟むか聞くような気軽さで大和はそう言ってベッドの脇にあった棚の上に荷物を置き、ベッドの縁に座った。僕は鼓動を高鳴らせて、玄関を入ってすぐのところで立ち竦んだまま緊張で動けない。
と、大和が急に立ち上がり、僕の方に真っ直ぐ歩いてくるので、心臓が口から出そうになりながら身を縮こませた。
「……ああ、一緒がよかったか」
ふっと息を吐くように笑う彼の表情に息を止める。瞬間、抱き寄せられ柔らかな感触を唇に感じた。
「何? キスやだった?」
「そ、んなことない、けど」
「じゃあ、口開けてよ」
大和は僕の頬に手を添えると、唇を親指の腹でなぞった。僕はまるで魔法にかけられたように口をゆっくりと開く。二年前の先に、僕はずっと行きたかったんだから。
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