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吐瀉物を前にして心底嫌な気分だろうに、大和は僕の背を擦ってくれた。その大きく優しい掌にフラッシュバックした災厄から少しずつ現実に引き戻されていく。
「大丈夫か? 全部吐いた方が楽になるぜ」
僕はトイレットペーパーで口を拭い、よろよろと立ち上がってバーに手を伸ばし、水を流した。ふらつく僕の肩を大和が支えてくれる。部屋に戻ると、ベッドの縁に腰を下ろした。
「少し休んだら出よう」
「そんな……! 僕は……」
ずっと大和のことを想っていた。好きで好きで仕方なかった。恋人になれないなら、せめて一度でいいから抱かれたいと思って、決心して今日を迎えたのに。
いつの間にか目に涙が浮かんでいた。吐いた時に生理的に出た涙とは別のものだろう。
「仕方ねぇなぁ。分かったよ」
そう言うと、大和は僕の身体をベッドに横たえさせた。そして額に軽く口付けると僕の身体を包み込むようにして抱き締めた。
「気分が落ち着くまで、このまま横になってろよ」
僕は大和に抱かれたかった。気なんて遣わずに、強引にでも構わないから、最後までシたかった、のに。
大和の身体は温かくて大きかった。抱き締められてどきどきするかと思ったけれど、不思議と安心感の方が大きくて、安堵の吐息が零れる。僕は裸だし大和も下着一枚の格好なのに。
胸に頭を預けて、大和の背に腕を回した。この間だけは、恐ろしいことなんて何もないと思えた。
二時間の休憩が終わってホテルを出た。セックスできなかったのにお金を払わせるなんて申し訳なかったけど、さっさと大和が全額支払ってしまった。
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