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1.
感染拡大。緊急事態。外出自粛。ソーシャルディスタンス。
テレビでもネットでも学校でも街でも、同じようなニュースや言葉であふれている。
「またかあ。いい加減飽きたよこの話題」
私は朝ごはんのトーストをかじりながら、テレビに目を向けてぼやいた。
「仕方ないでしょ、そういう時代だって諦めるしかないわよ。うちの職場でも厳しいのよ」
とお母さんが冷めた口調で返す。
「ほんとだよ。学校でもみんな大人しくて、全然しゃべれないし」
どこもかしこも同じ。みんな、いつ自分がそうなるんじゃないかって、ビクビクしてる。
『感染者は現在も全国的に広がっており、みなさまには徹底した感染対策をお願いしています』
去年の4月に新型のウイルス感染症が発覚し、感染者が爆発的に増えた。
はじめは、誰もが一時的なものだと思っていた。
けれど、1年以上が経っても感染はいっこうに収まらず、感染者は増え続ける一方だ。
原因も、感染源もはっきりしていない、厄介なウイルス。
そのウイルスによっておこるのが『恋愛病』だ。恋をすると熱が上昇し、平常心を失い、おかしな行動をするようになる。悪化すると味覚や嗅覚を失い、呼吸困難に陥り、最悪の場合死にいたる。
恋愛ウイルスなるものはもとからあったものらしいけれど、いつどこでそれが病原菌になったのか、理由も感染源も、わかっていない。
薬もワクチンもない。マスクや消毒も効果なし。それなのに空気感染はする。恋愛中の人が発するアドレナリンやらセトロニンやらが大量に分泌される独特の空気が、感染につながるらしい。
恋愛病の対策法は、恋愛をしないこと。
ただそれだけ。私は思った。
ーーなんだ、そんなの簡単じゃん。
「ふみ。あんたも気をつけなさいよー。ひとりが感染すると、みんなに迷惑がかかるんだからね」
お母さんが念を押すように言った。それから私をじっと見て
「……ま、ふみは大丈夫か」
と笑う。
「わかってるじゃん」
そう、私に限ってその心配はない。
高校生になって、友達が告白されたり告白したり、彼氏ができたり、みんなが恋愛のことで頭がいっぱいになっても、私にはちっともピンとこなかった。
いままで一度も誰かを好きになったことなんてない。きっとこれからもない。
私にはたぶん、もとからそういう機能が備わっていないのだ。
だから、どれだけ世間が恋愛病だなんだって騒いでいても、私には関係のないことだった。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
誕生日に買ってもらったワイヤレスイヤホンを耳にさして自転車に乗る。
大好きな音楽。漫画。アイスクリーム。走ること。勉強はあまり得意じゃないけれど、国語と英語だけは好き。
恋愛なんてしなくても、私には好きなことがたくさんある。
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