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『恋愛病がおちついたら、よりを戻そう』  沙耶と島田くんは、私の目の前で、そう約束した。  いつ収束するかもわからない。それまで待てるのかどうかもわからない。でも、別れるんじゃなくて、待つ。どれだけでも待ってみせる。 『浮気したら許さないから』  そう言う沙耶に 『するかよ。恋愛病より沙耶のほうがこえーわ』  島田くんは笑った。別れていた六ヶ月なんてなかったかのように。  私はそんな二人を眺めて、嬉しくなった。  やっぱりこの二人が一緒にいるところ、好きだな。  そして、羨ましいとも思った。  入江くんを好きになって、初めて知った感情だ。  私もいつか入谷くんとそんな風に……… 「ふみっ!」  沙耶の声で、はっと現実に戻った。  あぶないあぶない。妄想が飛躍しすぎて脳内でうっかり私と入谷くんの結婚式を始めるところだった。 「なんか最近、ぼーっとしてるよねえ」  学校に行く途中、沙耶が言った。 「えっ? そ、そう?」   もしかして、顔にでていたんだろうか。 「まあ、ふみはいつもぼーっとしてるけどさ。いつにも増して……っていうか、なんかあったでしょ」  沙耶にじっと見つめられて、私はギクリとする。  じつは、入谷くんのことが好きなんだ。  もし訊かれたら、そう言おうと思っていた。  沙耶なら誰にも言わないって信用できる。  だけど、怖かった。  この気持ちをはっきり口にしたら。  誰かに伝えてしまったら。  私はいまよりもっと、入谷くんを好きになってしまうんじゃないか。  いままで私の中にあった気持ちが、私の中だけで抑えられなくなりそうだった。  気持ちは伝染する。言葉から広がっていく。  だから、 「な、なんにもないよ……?」  私はぎこちなく笑って答えた。 「ほんとに?」 「ほんとに」  私は首を思いっきり縦に振った。 「ま、いーや」  と沙耶は自転車のスピードをあげた。 「でも、言う気になったらいつでも言ってねー」  うわあ……絶対、バレてる。  口にしなくても伝わってしまうのかもしれない。  だったら、恋愛禁止なんて、なんの意味があるんだろう。  「恋愛しない」そんなの、簡単なことだと思っていた。  でも、ちっとも簡単なんかじゃなかった。  この気持ちを知ってしまったら、自分では止められない。  誰にも止めることはできないんだ。
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