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 走ってグラウンドに行くと、先生に睨まれた。 「佐藤ー、もうはじまってるぞ」 「すみませんっ!」  私はファイルから記録表を取り出して位置につく。  笛の音を合図に、短距離走がはじまった。  ちゃんと記録つけなきゃ。みんなに迷惑をかけてしまう。  なのに、まだ、心臓の音が鳴り止まない。 「ふみ、どうしたの、ぼうっとしちゃって」  沙耶が心配そうに声をかけてくれる。 「ううん、なんでもない」 「次、ふみの番だよ。記録、変わるからいってきなよ」 「あ、うん、お願い」  私は急いで位置についた。  心が、慌ただしい。いつもはこんなんじゃないのに。  位置について、よーい。ピッ、と笛が鳴る。  一歩踏み出せばこっちのもの。  あっという間に一周走り終わって、一位でゴールした。 「ふみ! すごい! やっぱり足速いねー」 「部活があったら、いまごろ絶対陸部のエースだよねえ」  恋愛病が広まったのは高校入学してすぐだったから、私は2年生になっても、部活に参加したことがない。  部活があったら、どんな感じだっだんだろう。  入谷くんも、何かの部活に入ったりするんだろうか。  体育をサボるくらいだから、きっと運動は嫌いなんだろうけれど。  私が走るところを見たら、入谷くんもすごいって言ってくれるかな。  ……いや、言わないか。何考えてるんだろう私。  どんなに否定しても、考えないようにしても、近づいた入江くんの顔が、どうしても離れなかった。  鼻がくっつきそうな距離。口に当てられた大きな手。  初めて「男の子」を意識した。  いままで気づかなかっただけで、私の心にもこの機能はちゃんとあったんだ。  もしかして、これも感染、なんだろうか。  恋なんて私には関係ない。きっと一生しない。  そう思っていたのに……  私は入谷くんに、恋をしてしまった。
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