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2.
この気持ちは、絶対、誰にもバレないようにしよう。
意識しなければ大丈夫。
そう思っていた。
「じゃあ、この問題を、入谷」
「はい」
入谷くんが立ち上がって、黒板にすらすらと数式を書いていく。
ーー手、大きいなあ。
私は入江くんの手を眺めながら、ほう、と息を吐く。
背が高い入谷くんは、どこにいても目立つ。でも、つい目で追ってしまうのは、きっと背が高いからだけじゃない。
ダメだ、これじゃあ完全に恋する女子そのものだ。
私は恋愛脳を払拭するべく、頭に不良を思い浮かべた。河原でぶつかりあう百人の不良たち。殴り合い、蹴り合い、血みどろの喧嘩が繰り広げられる。
そういえばあの漫画の主人公、入谷くんに似てるなあ。名前も拓海だし……。
あっ、また考えてる。
最近、何をしても、何を考えても、川が最終的に海に行きつくように、すべての物事が入谷くんにたどり着いてしまう。
……もうダメだ。私の脳は恋愛に侵されている。もう恋愛病かかってるんじゃないかこれ。
恋愛病は恋している人がみんなかかるわけじゃない。感染していても発症しない場合もあるし、逆にいきなり発症して重症化し、最悪呼吸困難で心臓が止まる場合もあるというからおそろしい。
どうして脳と心臓が関係あるのか。ずっとピンと来なかった。
たしかに、緊張したときは心臓がバクバクする。だけど緊張しすぎて死ぬ人はいない。
でも、恋愛は、ちがう。普通の状態とは、あきらかにちがう。
私の体が異常事態になっているのがはっきりとわかる。あともう少しで、本当に心臓が止まってしまうんじゃないかってくらい、サイレンがガンガン鳴っているのだった。
これ以上先に進んではいけない、と。
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