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 この気持ちは、絶対、誰にもバレないようにしよう。  意識しなければ大丈夫。  そう思っていた。 「じゃあ、この問題を、入谷」 「はい」  入谷くんが立ち上がって、黒板にすらすらと数式を書いていく。  ーー手、大きいなあ。  私は入江くんの手を眺めながら、ほう、と息を吐く。  背が高い入谷くんは、どこにいても目立つ。でも、つい目で追ってしまうのは、きっと背が高いからだけじゃない。  ダメだ、これじゃあ完全に恋する女子そのものだ。  私は恋愛脳を払拭するべく、頭に不良を思い浮かべた。河原でぶつかりあう百人の不良たち。殴り合い、蹴り合い、血みどろの喧嘩が繰り広げられる。  そういえばあの漫画の主人公、入谷くんに似てるなあ。名前も拓海だし……。  あっ、また考えてる。  最近、何をしても、何を考えても、川が最終的に海に行きつくように、すべての物事が入谷くんにたどり着いてしまう。  ……もうダメだ。私の脳は恋愛に侵されている。もう恋愛病かかってるんじゃないかこれ。  恋愛病は恋している人がみんなかかるわけじゃない。感染していても発症しない場合もあるし、逆にいきなり発症して重症化し、最悪呼吸困難で心臓が止まる場合もあるというからおそろしい。  どうして脳と心臓が関係あるのか。ずっとピンと来なかった。  たしかに、緊張したときは心臓がバクバクする。だけど緊張しすぎて死ぬ人はいない。  でも、恋愛は、ちがう。普通の状態とは、あきらかにちがう。  私の体が異常事態になっているのがはっきりとわかる。あともう少しで、本当に心臓が止まってしまうんじゃないかってくらい、サイレンがガンガン鳴っているのだった。  これ以上先に進んではいけない、と。
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