会戦前夜

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例年より熱い夏の日差しを机にさしたパラソルで防ぎながら、ロゼリア・サエキは海を見ていた。ありとあらゆる呪縛から解放された、とでも言うような、戦争による貧困など感じさせぬ、美しい白い顔であった。半袖のワンピースに日焼けを避けるための黒い布を腕に通して被せてある。 家が立ち並ぶ陸地の方から1人の女性が走ってきて、ロゼリアに話しかけた。 「サエキさん!!ここにいたのね!」 「どうしたんですか、ブライサーさん?そんな慌てて?」 「知らないの!?うちの夫と旦那さんが前線から帰ってくるのよ!国が戦争に負けるまで、立派に戦って生き残ったのよ!」 「夫が…生きてる…?」 ロゼリアは驚き、椅子を倒す勢いで立ち上がった。1歩進むと、その頬に涙が流れた。ブライサー夫人は、早く迎えに行こう、と促して車を取りに家へと帰った。ロゼリアはそこを動かず、震える右手で左腕を撫でた。そこにある黒い布の下には、時間の経過によって治りつつあった無数の痣や傷が広がっているのだった。
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