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いや、ぼくは彼女のそういうところを実に気に入っているのだ――だけど。
だけど。
――だけど、日駆麗花は、昔のほうが輝いていた。
「ちょっといいか」
ぼくはふたりの間に割って入ると、小日向の手首を握った。そして、小日向を引きずるように歩き出す。油断していた小日向は足に力を入れる余地がなく、ぼくにただ連れられていくだけになった。
「どこに行くの、影井くん」
日駆に呼び止められた。その双眸には困惑が入り交じっている。
「二年先を行く人生の先輩として、ちょっとしたアドバイスだ。ふたりに聞かれるのが恥ずかしいから場所を変えようとしているんだよ」
「たしかにきみの柄じゃないけれど……」
「まあ、ここはぼくに任せておけ。ここから先は助手としてのカバーが必要そうだ。だから、助手のぼくに預けてくれ」
「……うん、分かった」
日駆のぼくに対する信頼はとてもありがたかった。ここでぼくの言動を否定して、小日向を引き戻せばそれはそれで見直したけれど……いまの日駆は昔の日駆ではないということだ。
ぼくは顧問と津浦とのアバンチュールの現場まで足を運んだ。この距離なら聞こえまい。禁断のふたりの行動は見えても話し声はほとんど聞こえなかったのだから。
着いてから小日向の手首を離す。小日向はぼくに握られていた手首をさすりながら、
「で、アドバイスとはなんすか」
と、問うた。
「いや、大したことじゃないんだ。ただ、学校新聞の記事にして糾弾するよりも効率的で爽快な方法があるから、それを教えてやろうと思ってさ」
「……その方法とは」
手首をさする手が止まった。
関心を向けてくれたようだ。
「しかし、その前にひとつ確かめたいことがあるんだ」
ぼくはわざと一拍おいて、言った。
「小日向靡子。お前が暗号の作成者だろ」
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