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 ぼくの告発に小日向は喫驚しなかった。  かと言って、憂うことも楽天的になることも、まして怒鳴ることもせず、ただただ剣呑な眼差しで、 「どうして私が暗号の作成者なんですか」  と、問うた。  まあ、どんな感情が渦巻いても最初の質問はこれに尽きるよな、と思いつつ、ぼくは推理を唱えた。 「不思議に思っていたことがあるんだよ。それはなぜ小日向が毎度暗号を発見するのか。暗号と怪文書、みっつともきみが発見してきた。国語辞典で語彙を調べるのは至って正しい行為だけれど、そんなお利口がどうして『辞書を使い解く』という方法を思いつかなかったのか。ふたつめの暗号にしたって、体育館と指定されているのに、体育館の外にあるのではなんて発想にはなかなか飛ばないものだ」  探偵でもなければね、とぼくは日駆を一瞥して末尾にそう加えた。 「それだけで私を暗号の作成者と決めつけたんすか」 「メインはその違和感だ。それをもとにお前の言動を振り返ってみたんだ。ひとつめの暗号では、行のことや辞典に焦点をあてること。ふたつめの暗号では、日駆が書き終わる前にひらがなから変換させたローマ字を読み上げたこと、『19』を出席番号と即答したこと――正答まできちんと辿り着くように誘導しているようだった」 「……そんなの、ただ閃いただけっす」 「それだけじゃない。ぼくは暗号の外にも目を向けてみた。するとひとつ、引っかかったんだ」  ぼくを睨めつける剣呑な眼差しを変えない小日向。 「何にですか」 「体育館の入館許可をもらうときだ」  ぼくは言う。 「学校では名の知れた探偵――日駆は教師陣にも一目おかれていて、彼らは学校の平和を守る彼女には協力的なんだよ。だから女バレの顧問が日駆の協力要請をあしらったのはぼくにとって瞠目だったのさ」 「あり得るんじゃないですか、そういうのは」 「あり得る――そう、そういうのはあり得るのさ。協力的と言ってもケース・バイ・ケースってわけだ。これはぼくの言いかたが悪かったな」  反省する。  印象に残った感情が先んじて出てしまった。 「ぼくが瞠目だったのは、そのあとのことだ――日駆からの打診は拒んだのに、小日向の打診は拒まなかったんだ」  すると、ようやく小日向の眼差しが歪んだ。 「説明したっすよ。それは先生が私の担任だからだって」 「『担任だから』程度の理由で体育館の捜査に許可を下すのなら、日駆の打診を承諾しているはずだろ」  小日向は苦しそうに頬を引きつった。
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