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「そこで、せっかくなら探偵を利用しようと考えたっす。日駆麗花は学校でも有名っすから、彼女が目撃者になって証言を語ってくれれば教師陣をも味方につけることもできるんじゃないか――こうして私は探偵を巻き込んだ計画を立てた」  小日向は壁に凭れたまま天を仰いだ。 「あーあ。私の振る舞いが露骨だったっすかね……」  その言いかたには哀愁があり、翳りを感じさせた。  かなわない恋愛に酔心して、捨てられた。  虚しいというより憐れだと、ぼくは思った。 「日駆先輩にばれるなら分かるっすけど、まさか影井先輩にばれるとは……。なんかショックっす。暗号を解いていたときは予想以上の実力を見せていたっすけれど、解決編をやる人種とは思っていなかったっすよ」 「……いや、その認識は合っているよ」  目端の利く観察眼だ。ぼくにも分けて欲しい眼力だ。新聞部で培われたかな。 「ぼくは助手だから――だからぼくは探偵の手助けをしているまでだ」 「なんすか、それ」  視線をぼくに戻した。 「含みのある言いかたっすね」  ぼくは小日向の近くまで歩み寄る。壁ドンをして傷心の彼女にコクるのではなく、彼女の右隣について壁に体重を預けた。  ここから日駆の姿が見えた。鼎と話していたのだろうが、ぼくの体勢が変わったことに気づき、小首を傾げる。こちらに寄ってくるかと思ったが、ぼくの気配からまだ話が終わっていないことを察したようで、鼎との談話を再開した。 「あいつの探偵としての才能はもうすぐ失われるだろう」  日駆に目を向けたまま、ぼくは言った。 「小学生のとき、こっちに越してきた日駆は探偵を自称した。どうせでたらめを言ってインパクトのあるキャラを演じたかったんだろうと、たかをくくっていたけれど、ぼくのちっぽけな予想を日駆は大きく上回ってきた。五百四十度回転した気分だったよ。だって、日駆は転校初日に起こった学級委員長の筆箱盗難事件をわずかな証拠から完膚なきまでに解決してみせたのだから――そう完膚なきまで」  大切なことだから二回言った。  そう大切なのだ。  完膚なきまでに――完全に解決した。  そして、犯人を看破する日駆に憧れた。
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