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「ありがとうございました。おかげで助かりました」
教室の一角、窓際の一番後ろの席からお礼の言葉が聞こえてきた。
そのひとつ前の席に座るぼくは机に顔を伏せていた。
「いいの。これはわたし達がやりたくてやったことなんだから」
「でも、先輩のおかげで私の彼氏の疑いが晴れたんですよ。お礼は尽くしても尽くしきれません」
「きみがそれだけ彼氏くんのことを愛している――それを知れただけでわたしは満足よ」
女子と女子の会話だった。
ひとりは依頼人だ。ふたつ下の一年三組の女子。名前は鼎沙苗。小学生から中学生になり早半年、早速つくった同級生の彼氏が部活の備品を盗んだ疑いにかけられていた。
もうひとりは探偵。このクラス、三年一組の女子。名前は日駆麗花。鼎の申し立てを受け、見事な手腕で鼎の彼氏が無実であると証明した。
昨日解決を見たその事件のお礼を鼎は日駆にしているのだった。
「おふたりとも、お幸せにね」
弾むような声で励ます日駆。
それは本心だろう。そこに嫉妬も皮肉も介在しない。
純粋で慈悲深く、明朗で可愛らしい。
ぼくの足下にも及ばない人格者が日駆麗花なのである。
ただし、ロリだ。
そこまで長くない髪をツインテールに結い、それに釣り合う猫目がちの童顔。体格も幼く、制服姿を除けば小学生時代とは大した変化もないのだ。
「ありがとうございます! 日駆先輩も彼氏さんと仲よくしてくださいね」
「か、彼氏?」
「ええ、この間一緒になって相談を受けてくれたじゃないですか。それでいて、いつも傍にいるのを目撃しているんで、ああ、あのふたりは付き合っているんだって思いました」
「ち、違う違う! わたしと影井くんとはそんな仲じゃないって!」
日駆は慌てた口調で否定した。
「でも、小学生の頃からの幼馴染みなんでしょう。幼馴染み同士ってくっつくのが相場で決まっていますよ」
「それってフィクションの相場でしょう。現実はそんなに甘くないって。あなたの彼氏ももとは違う小学校なんでしょう。中学校に入学して初めて会ったんでしょう。そういう人達がくっつくのが、い、いいい、一般的なんじゃないかな!?」
早口でまくしたてたうえ、どうして動じる。
「まあ、そういうことにしておきましょうかね。……また何かあったら頼ってもいいですか?」
「ええ、いいわよ。学校の事件は是非わたし達に任せてちょうだい」
じゃあね、と日駆はおそらく手を振った。失礼します、と鼎は小さく頭を下げたと思う。
後ろは静かになった。これでぼくもようやく入眠できるというものだ。
「ねえ」
うとうとと、意識が睡魔に侵食される。
「ねえってば!」
ばんっ、と背中を平手打ちされた感覚。叩かれてぼくは反射的に背中を立てる。振り向く。日駆はにたにたしながらこちらを仰いでいた。
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