序幕 夜灯り

1/1
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ

序幕 夜灯り

 蝋燭(ろうそく)の光が揺らめく。  薄暗い部屋は、揺らぐ炎に照らされていた。 「天は自ら助くる者を助く」  蝋燭が作る薄明かりに浮かんだ女の顔。  長い金細工の睫毛に縁取られた瞳は、星を宿していた。 「果たして、本当にそうかしら?」  女が(まばた)きをすると、瞳の中の星も揺れる。 「でもまあ、神様なんて居やしないのだから自分で自分を助けないといけない――それはわかるわ」  女はポツリと呟き、目を閉じた。  伏せられた瞼の奥で、星を宿す瞳は何を映しているのだろうか。 「アウグスタ・メアリ、そろそろお休みください」  目を瞑っている間に部屋には男が入ってきたようだ。  声をかけられ、アウグスタ――メアリと呼ばれた女は男を視界に入れる。 「そうね、グレイ。あなたも休みなさい。雨が降ってきたわ」  メアリが言うと同時に、雨粒が窓を叩く音がした。  グレイと呼ばれた男は小さく頷く。 「雨は、あなたと出会った日を思い出します」 「そうね、あの日も雨だった。ふふ、思い出に浸るのも悪くはないかしら」  クスクスと笑いながら、メアリはグレイと初めて会った日の出来事を瞼の裏で繰り返した。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!