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序幕 夜灯り
蝋燭の光が揺らめく。
薄暗い部屋は、揺らぐ炎に照らされていた。
「天は自ら助くる者を助く」
蝋燭が作る薄明かりに浮かんだ女の顔。
長い金細工の睫毛に縁取られた瞳は、星を宿していた。
「果たして、本当にそうかしら?」
女が瞬きをすると、瞳の中の星も揺れる。
「でもまあ、神様なんて居やしないのだから自分で自分を助けないといけない――それはわかるわ」
女はポツリと呟き、目を閉じた。
伏せられた瞼の奥で、星を宿す瞳は何を映しているのだろうか。
「アウグスタ・メアリ、そろそろお休みください」
目を瞑っている間に部屋には男が入ってきたようだ。
声をかけられ、アウグスタ――メアリと呼ばれた女は男を視界に入れる。
「そうね、グレイ。あなたも休みなさい。雨が降ってきたわ」
メアリが言うと同時に、雨粒が窓を叩く音がした。
グレイと呼ばれた男は小さく頷く。
「雨は、あなたと出会った日を思い出します」
「そうね、あの日も雨だった。ふふ、思い出に浸るのも悪くはないかしら」
クスクスと笑いながら、メアリはグレイと初めて会った日の出来事を瞼の裏で繰り返した。
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