第1幕 雨

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 メアリの口元が弧を描く。  喉元に突き付けられた刃物など存在しないかのように、ころころと笑った。  そんな彼女の態度が気に障ったのか、刃を握る手に力が入る。 「目には目を、歯には歯を……殺しには、殺しを」  メアリの喉に突き付けられていたはずの刃先が、海離の腹部に沈んだ。  わけのわからぬまま、自らの手で腹を刺していた。  じわじわと滲む赤は、シャツを染めていく。 「あなたはマユ先生に執着していたようだけど、別に彼女が好きだというわけではなかったのね」  メアリは抑揚のない声で言う。 「ただ、自分を認めてくれる人が欲しかった――自分を見て欲しかった。そうでしょう?」  ザアザアと強くなる雨。  メアリの問いかけるようか言葉に答えず、海離は倒れ込んだ。  口元が微かに動くが、言葉にはならない。 「身勝手な業よね」  うつ伏せで倒れた海離の身体をつま先で仰向けにする。  メアリはナイフを握る海離の手を、腹部に刺さったまま胸の方に向かってスライドさせた。  皮膚と肉が切り裂かれ、多量の血が流れ出る。  降り注ぐ雨がそれを流していく。 「ねえ、死んでいく気分はどう?」  ――ザアザアザア。 「人の聴覚は最期の瞬間まで残るんですって。だからね、あえて言うわ。――ひとりぼっちで地獄へ落ちろ!」  降りしきる雨の中でも、メアリの声は海離の耳にこびりついたことだろう。
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