第1幕 雨

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 メアリと鏑木、その妻である京子――三人と対面した根津は、何から話そうか迷ってしまう。  聞きたいことが多すぎるのだ。 「私はこのまま終わらせる気はないです」  考えをまとめている根津に、メアリが声を掛ける。  個人情報への苦言をどう伝えるか迷っていた根津は、首を傾げた。 「アウグスタは加害者サイド……犯人と、彼を庇ったもの全てに復讐をするつもりなんです」 「アウグスタって……それに加害者側、全員に?」  京子が根津に声を掛けると、彼は更に首を傾げることになった。 「アウグスタとは、ローマ帝国皇帝の称号であるアウグストゥスの女性形です。皇帝ではなく、元々の意味である『尊厳者』として私が呼ばせてもらっているんです」  メアリをアウグスタと呼び始めたのは、京子だった。  彼女の夫である鏑木もまた、メアリのことをアウグスタと呼んでいる。  鏑木夫婦は、メアリに救われて以来、彼女を崇拝し、アウグスタと呼び始めた。  こほん、とメアリが咳払いをする。  話が反れてしまったことに気付いた京子は、軽く頭を下げて唇をつぐんだ。 「加害者――まゆみさんを殺害した犯人は既に亡き者になりました。現場に色々と痕跡を残したのは、警察の捜査を撹乱するためともうひとつ」  メアリは人差し指を立てる。 「あるはずのないものを残すことで、警察に疑惑の目を向けさせることが目的でした」  既に殺害されている人間の痕跡を残すことで『偽装工作』であるのを印象付けると共に、警察の隠蔽や改竄と言った負の側面を表に出すためだ。
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