第1幕 雨

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「世間の目を、警察の不祥事に向ける。今回の事件だけでなく、今までも証拠の改竄や隠蔽は行われていますから」  警察に向けられた疑惑の目は、メアリが手を下すまでもなく彼らを締め上げる。  しかし、それはただのきっかけに過ぎない。  きっかけをつくるだけでは復讐というには程遠いのだが、メアリは既に次の手を打っていた。 「根津さんだけじゃないんですよ。警察の捜査に対して思うところのある被害者や、その家族は」  メアリは鏑木から封筒を受け取り、中身の書類をテーブルに出す。 「未解決のまま、捜査が進まない事件。それに、ろくに捜査がされないまま事故として処理された事件について調べました。そして、纏めた上で、それぞれ別のマスメディアに送付しています」  疑惑の目を広げ、不祥事だらけの警察組織を一掃しようとしているようにも見える。 「なんで、そこまで……」  根津の呟きにメアリは答えず、目を伏せた。 「アウグスタは自ら罪をかぶり、ひとを救ってくださる方なのです。私たちもアウグスタに救われました」  鏑木夫婦はメアリに救われたのだという。  しかし、そうは言うもののメアリは今回、若柴海離を亡き者にしている。  他人の復讐のために殺人まで犯すのだろうか――と根津が考えていると、メアリ本人が口を開いた。 「生まれたときから地獄に落ちることが決まっているのに、躊躇う必要なんてないから」  目を伏せたままのメアリは、強い口調で告げる。
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