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聖書の一節を引用したメアリの瞳は、雨に打たれて光を失っている。
「あなたは何を思い詰めているんですか」
根津は聞かずにはいられなかった。
焦っているようにも見えるメアリには、他にかける言葉が見当たらない。
メアリは答えることなく、両腕を広げている。
雨を全身で受け止めているが、そのまま飛び降りてしまうのではないか――根津はそう思い、メアリの手を引いた。
二人共バランスを崩し、座り込むように倒れていく。
「誰が生きて、誰が死んでも世界は変わらずに過ぎていくだけ……」
水たまりに膝を付き、ずぶ濡れになったメアリが口を開く。
「後悔、しているんですね」
「まゆみさんを救えなかったことに対しては、です」
根津の言葉にメアリは俯いたまま、気まずそうに答える。
「相談を受けた時、すぐに対応できていれば――私は友人を失わずに済んだのに」
メアリはストーカーの存在に気付きながら、その場で彼に何かをすることはしなかった。
「もう過ぎたことです。まゆみもあなたのことを恨んでなんかいないでしょう」
根津は自分と同じ後悔をメアリが抱えていたことを知った。
すべてを見通すような彼女でさえ、読み間違えることもあるのだ。
「ははっ、あなたに復讐を提案したのも、結局は私のエゴでした」
言葉を口にしたメアリは無表情で虚空を見つめている。
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