第1幕 雨

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 襲ってくるのはおぞましさに対する吐き気だけだ。  それなのに涙すらでない。  埋められない喪失感は根津の心を蝕んでいく。  思いとは関係なく、時間は経っていった。  他に家族のいない妻の葬儀を行う。  眩しい笑顔で写った遺影が、根津に残酷な現実を突きつける。  彼女の葬儀は内々で行われた。  参列したのは根津の親戚と、妻の友人が数人――結婚式以来の再会がこんな形になるなんてと泣いている。  参列者の中に根津が知らない女の姿があった。  年は二十歳くらいで、根津の妻の友人にしては年若い。 「お悔やみ申し上げます」  根津が声をかける前に、女の方から挨拶をしてきた。  その手には真っ白なユリの花束を持っている。 「これは、まゆみさんに……」  霊前に花束を捧げ、手を合わせて祈る女。  根津は最初、事件を追っている悪質な記者かもしれないと思っていたが、彼女から悪意は感じられなかった。  きっちりと喪服に身を包んでいることと、礼儀正しく会釈をしてくれたのもある。 「まゆみの友人ですか?」  彼女の正体が気になった根津は、問いかけてみた。 「いいえ。でも、相談には乗っていました」  女は友人ではないが相談に乗っていたという。  いったいどういう関係なんだと、根津が訝しげな眼差しを向けたのに気づいたようだ。 「SNSで知り合って、悩みを聞いていたんです」  女は眉を寄せ、悲しげな表情になった。
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