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襲ってくるのはおぞましさに対する吐き気だけだ。
それなのに涙すらでない。
埋められない喪失感は根津の心を蝕んでいく。
思いとは関係なく、時間は経っていった。
他に家族のいない妻の葬儀を行う。
眩しい笑顔で写った遺影が、根津に残酷な現実を突きつける。
彼女の葬儀は内々で行われた。
参列したのは根津の親戚と、妻の友人が数人――結婚式以来の再会がこんな形になるなんてと泣いている。
参列者の中に根津が知らない女の姿があった。
年は二十歳くらいで、根津の妻の友人にしては年若い。
「お悔やみ申し上げます」
根津が声をかける前に、女の方から挨拶をしてきた。
その手には真っ白なユリの花束を持っている。
「これは、まゆみさんに……」
霊前に花束を捧げ、手を合わせて祈る女。
根津は最初、事件を追っている悪質な記者かもしれないと思っていたが、彼女から悪意は感じられなかった。
きっちりと喪服に身を包んでいることと、礼儀正しく会釈をしてくれたのもある。
「まゆみの友人ですか?」
彼女の正体が気になった根津は、問いかけてみた。
「いいえ。でも、相談には乗っていました」
女は友人ではないが相談に乗っていたという。
いったいどういう関係なんだと、根津が訝しげな眼差しを向けたのに気づいたようだ。
「SNSで知り合って、悩みを聞いていたんです」
女は眉を寄せ、悲しげな表情になった。
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