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    「……あ、鱗雲……!」 放課後の教室の窓の向こう、斜め上に広がる10月の空に、私の大好きな景色を見つけた。 校舎4階の運動場に面したこの教室の窓は、学校周辺が田畑と山に囲まれているせいか、大自然を描いたキャンバスみたいだ。 ポコポコと規則正しく並ぶ愛らしい雲を眺めながら、「鱗雲だって、絶対」と小さく洩らす。 以前家族で議論になった。 秋空に出現するこの雲を何と呼ぶのか。 私は断固『鱗雲』。 でも、両親は共に『鰯雲』。 なんでも、この雲が出ると鰯が大漁になるのだという。 鰯が群れているように見えるから『鰯雲』なのだと主張されたけれど、私には一匹の大きな魚が空に浮かんでいるようにしか見えない。 その大きな魚の、『鱗雲』なのだ。 まあ、どっちも正しいから、どっちでもいいのが結論。 清々しい絵画に名残惜しく別れを告げて、ふと教室を振り返る。 そこには、モンスターが溢れていた。 「おーい! 誰か裁縫得意なやつっ! ここにこれをこうやってつけてくれー!!」 ぷっ。なんて抽象的な頼みなんだろう。 「帽子のサイズが全然合わなーい! 誰か私の頭を縮めてーーっ!」 そっちの願いは絶対叶わないって。帽子のサイズを大きくすればいいのに。 「パンピキンの被り物床に置いてるの誰ー!? 踏んじゃうよー?!」 ピではなくてプなのでは? 飛び交う怒号に内心で突っ込む私は、よほど暇人とみえる。 1週間後の11月3日、文化の日。 今年も我が高校に文化祭がやってくる。 私のクラス2ーBは、教室を使っての【仮装喫茶】。 ハロウィーンは文化祭に関係ないのに、皆が皆モンスターに仮装して接客するらしい。 教室内は、その準備に大忙しなのだ。
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