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とはいっても、私は完全裏方で、だから暇人に通ずる。 接客係は男女5名ずつ、残りは飾り付け準備や、当日の配膳準備係。 本番は午前と午後の部に分かれるため、実質仮装して接客するのは男女それぞれ10名。 つまりクラスの約半数が仮装する。 そんな中、私の『裏方』は徹底していて。 クラス副委員長という肩書きのもと、経理と後片付け全般を引き受けた。 もともと目立つのは好きじゃないし、準備に携わるほどのセンスもない。 私はのんびり見学して、終わったらひとりで密やかに大活躍するつもりだ。 「あ、いたいた! やっちーん、この衣装の背中おかしくなーい?」 窓際でモンスター達を眺めていると、友人が走り寄って来た。 魔女だ、魔女に化けるつもりだな。 紫色の丈の短いワンピースを翻して、私の目の前に向けたお尻があまりにキュートなので、思わず右手でポンと叩いてやった。 「ぎゃんっ!」 「ごめん、とっても可愛いお尻だったから。背中、大丈夫よ。ファスナー目立ってないし、綺麗なライン。すごく似合ってる」 「やっちん仮装無しだよね、つまんない。魔女っ子やっちん絶対可愛いと思うんだけどぉ」 「私なんか需要ないから」 「そんなことないよー! やっちん地味に可愛いもん。それに需要なら、鶴田だよ! 鶴田は絶対やっちん好きだよー!」 「なぜ鶴田」 何気に失礼な言葉は多目にみて、突然出現した名前に、私は素朴に首を傾げた。 鶴田はクラスメートだ。 席替えの度になぜか前後左右のどこかに必ず座っている、いわゆる『不思議なご縁』のある男子。 クラスで一番会話率の高い位置にいることで、自ずと仲良くなっていったけれど。 教室の外では、ほとんど話したことがない。 要するに、その程度の存在なんだと思う、お互いに。 「私的見解によるとね、鶴田はやっちんラブなのよ」 「答えになってない」 私が知りたいのは、その見解に至った理由だ。 すると友人は神妙な顔で腕を組んだ。 「やっちんが鶴田の側に来たら、鶴田の周りの男子が目配せするの。それにね、肘で鶴田を小突くの」 「……え? それだけ?」 「それだけ」 「ば」 「ば?」 危ない危ない、思わず『馬鹿馬鹿しい』と吐き捨てるところだった。 でも本当に馬鹿馬鹿しい。 そんなので好意を決定付けていたら、好きも嫌いも全部いっしょくたになってしまう。
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