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「ふぅーん」
気のない返事をしておいて、何気無く教室内の鶴田の姿を探すと、思いの外すぐに見つかった。
なにやらどでかいカボチャの被り物を抱えて、友達と笑っている。
その笑顔は真底楽しそうで、屈託がなく、平和そのものだ。
でもあの笑顔は誰のものでもない。
いつもみんなに平等で、重たくも軽くもならずに、バランスのとれたやじろべえみたいな笑顔。
だから、私は特別なんかではない、ということを知っている。
ぼんやり眺めていると、視線を泳がせた鶴田の軌道に、私の目が乗ってしまった。
カチリと目が合った。
漫画で言うと、鶴田の斜め頭上に点々が3つ付いて、「ん?」と気が付いた感じだった。
「……ほら来たっ! やっちん目掛けて来たっ!」
「うるさい」
からかう口調の友人のお尻をひと叩きしてから、私は正面からカボチャと共にユラユラやってくる鶴田を迎えた。
「あれ? 安野は仮装しないの?」
「私は裏方。……そのカボチャ、もしかして頭から被るわけ? 前見えるの?」
「重たいだろなぁ。首凝るよなぁ。転ばなきゃいいなぁ」
「……だね、気を付けてね」
他人事のような鶴田の言葉に、他人事のような返事をして、そこで会話はあっさり途切れる。
まさか。
この男子が私を好きなハズがない。
LINEも知らないし、どこに住んでるかも家族構成も何も知らない。
接点は教室だけ。
「えーと、裏方って何やるの?」
別に無理に会話してくれなくていいのに。
そんな義務を課した覚えは、私にはない。
「後片付けかな。それと、売り上げ金の計算」
「あ、なるほど」
「接客係は大変だろうけど、頑張ってね」
「あ、うん。えーと、後片付けってことは、最後のライヴは間に合わない?」
『最後のライヴ』。
うちの高校の文化祭は、夜の活動は禁じられている。
だから、漫画でよくあるキャンプファイヤーや、その周りを囲ってカップルでフォークダンスとか、そんなのはあるわけがない。
でもそれでは物足りないと、何代目かの生徒会が、午後4時の文化祭終了前に運動場の特設ステージで有志のライヴ活動を許可したそうだ。
数年の時を経て、今では我が文化祭最大のイベントになり、フォークダンスの代わりと言わんばかりにカップルが盛り上がる。
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