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よく見ればあれって、鶴田といつも一緒にいる男子だ。 思わず窓から身体を乗り出した。 今はもう、カボチャを地面に置いて隣の女子と手を繋いでいる。 明らかに鶴田の友達だ。 「叫び声がっ、聞こえたんだけど」 「はいっ?!」 前触れのない背後からの声に、私の返事は見苦しく裏返った。 「助けを、求めてた」 肩で荒々しく息をする鶴田が、ゼイゼイ言いながら教室の戸口に立っていた。 ……え? なんで? まさかとは思うけど、 「……もしかして、私の声、聞こえた?」 「聞こえた。だから急いで上がってきた」 「……凄い地獄耳」 「まーね。で、なんで『ヘルプミー』?」 「いや、単なるストレス発散。ごめん、気にしないで」 苦笑いで右手を振ると、鶴田はそれきり黙りこんだ。 妙な沈黙が教室に落ちた。 どうすればいいのか混乱した。 途方に暮れて鶴田の足元ばかりを見ていると、小さな声が大きく響いた。 「……窓からずっと、誰か見てた? 助けて欲しかったやつ、他にいた?」 心臓が跳び跳ねる。 鶴田見てた。 なんて言えない。というか、鶴田だと思っていたカボチャを見ていた。 「……まあ、それなりに」 「もしかして、カズ?」 「カズって誰?」 「長岡だよ、カボチャ頭の」 あら、バレてる。 私はよほどカボチャを追っていたらしい。 でもそれは、何かが違う。 「安野は、カズが好きなの?」 「違うっ。それは誤解っ」 慌てたせいか、声が大きくなった。 戸口から鶴田がこっちに向かってくる。 意識していることを意識した今は、緊張で妙な汗が浮かんだ。 「ていうか、カボチャの仮装って、鶴田じゃなかった?」 「え? 俺はバンパイアだよ。ほらこの通り」 私の目の前で両手を広げて見せる鶴田は、確かに真っ黒いマントを羽織っていて。 真っ赤な蝶ネクタイが、首もとに絞まっていた。  
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