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「最初からそれだった?!」
「うん」
「だって、こないだわざわざカボチャ抱えてこっち来たし! 歩行訓練してたし!」
「カズに借りただけ。俺、一言も自分の仮装とか言ってないよ。最初から、バンパイア」
ぐっ。
確かに、思い当たる節が無いでもない。
自分が仮装するにしては、やけに他人事だった気がする。
カボチャを持った鶴田を見た瞬間から、私の中ではずっと、カボチャ頭が鶴田だったから。
顔が丸見えなのに、バンパイアの鶴田が目に入らなかったのだ。
「……私はてっきり、カボチャは鶴田だと……」
思わず小さく洩らすと、ようやく鶴田が弾けるように笑った。
「カズすげーよな。あんなどでかい被り物して、移動の素早さ半端ないし。俺には到底無理な芸当だ」
「うん、相当フラフラだったよね」
なんだ、訓練しても無理だったんだ。
笑いそうになるのを堪えていると、鶴田は私の隣に立って、窓に凭れた。
すぐ傍の鶴田の気配に、心拍が地面に穴を開ける機械のようなビートを刻んだ。
「今日1日、安野はずっと、カズを目で追ってたからさ。ここの後片付けの前に、少しでも一緒にライヴどうかと思ってたけど、諦めた」
「待って、それは大いなる誤解」
「うん、さっきので分かった。思い込みって恐ろしいよな。もしかしたら、こうやって交差することなく、すれ違いで終える場合もあるんだろな」
本当だ。
私の思い込みも、鶴田の勘違いも、表彰に値する。
こんな誤解で見当違いの悲劇に嘆きながら、始まりを通り越して完結してしまう物語があるかもしれないなんて、笑える。
……いや、全然笑えない。
本当に助かった。
叫んで良かった。
届いて良かった。
友人に感謝だ。
心底ホッとして鶴田を見上げると、鶴田は空を見上げていた。
「あー!」
「え? なになに?」
「鱗雲っ」
え? 今何て言った?
空を見上げる鶴田の横顔を、私は思わず凝視した。
「ほらあれ、鱗雲。安野の好きな雲」
「なんで……」
それを知ってるの?
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