それってある意味、ホラーかもしれない

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それってある意味、ホラーかもしれない

 みなさんは覚えているだろうか。いや、忘れたくても忘れられない。でも出来れば忘れていたかった。そんなの存在をーーーー。 「ココぉぉぉぉぉ~っ!いくらなんでも1週間も僕を無視するなんて酷いよぉぉぉぉぉ!!これ以上返事が無いなら強硬手段を取るしか……!!」  とうとう我慢の限界を迎えたハインリヒトが扉をぶち破る決意をした。というか、この1週間ずっと泣きながら扉に縋り付いていたハインリヒトを見ていた使用人はその姿にドン引きしながら「よく1週間も待ってたな」と呆れてもいる。行動力があるのやらないのやら……もはや使用人たちの間でハインリヒトは“泣き叫ぶポンコツ王子”の異名を欲しいがままにしていた。  最初こそルージュココが心変わりしたのではと心配し、ハインリヒトに同情もしたが……毎日毎日全く誠意の欠片も感じられない謝罪(?)を扉の前で繰り返し、自分の何が悪かったのかがわからないから教えてくれと懇願するばかり。  いや、ちょっとは自分の頭で考えろよ!と、使用人たちは心の中で総ツッコミした。  何がキッカケで喧嘩になったのかは知らなかったが、ハインリヒトが「もしかして、目の前でチョコレート食べたからぁ?!」と叫んだ時はその場にいた全員が思った。  過酷なダイエットをしているルージュココ様の目の前でチョコレートを食ったのか?!と。  その話はあっという間に広がり、女性の使用人たちは「無い。自分との結婚式のためにダイエットしている婚約者の目の前でお菓子食べるとか、無い。いくら王子でも無い。え、嫌がらせ?」とブリザードな視線でハインリヒトを見るようになった。それまで「王子様って素敵ね」と話に花を咲かせていたのが嘘のように氷河期が訪れた。  ついでに男性使用人たちは「……え、アホなの?」と思わず呟いたとか。食べるにしてもこっそり食べればいいのに、なぜわざわざダイエットしている婚約者の目の前で食べるのか意味がわからなかった。恋人や伴侶がいる者からしたらその行為は自分の首を締めるだけだとわかっていたからだ。そんなこと、裏に何かあるからとしか思えない。  そして、ハインリヒトの行動はどうしても不可解にしか見えず……いつしかこんな噂が囁かれ始めたのだ。 「もしかしたらハインリヒト殿下は他に好きな人がいるのでは?わざとルージュココ様を怒らせて婚約破棄するつもりなのなのかも。そうでないとあんな酷いこと出来ないはず」と。  それくらいハインリヒトのやっていたことが最低最悪だったのだが、ハインリヒトにその自覚はない。とにかく、ルージュココと両想い(勘違い)になれたことに浮かれまくっていただけだからだ。だが、もしもルージュココに悪意もなくそんなことをやっていたとしたら……そんな奴に好かれているなんていいことなんか何も無い。天然モラハラ野郎なんて土に埋まればいいのに。と周りの人間は考えていた。当然の結果である。もうこの屋敷にハインリヒトの味方はいない。……ちなみに執事のウィルは、中立の立場を守っていた。  そして、運命はハインリヒトに味方しなかったのだ。  ばぁん!!  ルージュココがボイコットして立て籠もっていたはずの部屋の扉が無理矢理こじ開けられた。 「ココ……!どこにーーーー」  息を切らしながらハインリヒトが部屋の中を見渡すと、そこにルージュココの姿はなく……。ハインリヒトは顔色を悪くして一点に視線を固定した。  壁に不自然に空いていた穴を背に、人影が動く。少し汚れたその衣服は学園の制服だった。  見慣れた…いや、見慣れたくなかったオレンジゴールドのふわふわの髪をしたその人物は同じくオレンジ色の大きな瞳を細めてにっこりと微笑んだのだ。  あざとかわいいと評判のその笑顔で彼女はこう言った。 「あ、王子様!……見ぃつけた☆」と。
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