婚約破棄したい!

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婚約破棄したい!

ぽっちゃりーん。 鏡に写った自分の頬と腹の肉を……指で摘まみ持ち上げ、軽く引っ張って指を離す。 ぽっちゃりーん。 もう、これはあれだ。『孤独のグ○メ』の名台詞「腹が減った」をすっぱ抜くアレな感じでぽんぽんぽーん、とお見せしたいくらいなアレだ。見事な三段腹。 ぷるるんと揺れるMY・ONIKUを見て「わぉ、すごい弾力ぅ♪」と半泣きしながら呟いてしまった。不本意ではあるが目標達成した喜びを誰かと私が分かち合いたい。……うん、誰もいない。 そう、私は太っている。自他共に認めるDEBUである。 「よくやったわ、私!目標体重まで太りきったわぁ!」 体重計の針を二度見して私は両手を拳にして天高くかがけたのだった。 突然だが告白しよう。私は転生者……前世の記憶がある。そしては、なんと乙女ゲームの世界なのだ! 今の私はコンコールド王国の公爵家の娘、“ルージュココ・ヴォルティス”。大好きな乙女ゲームの世界に転生した、もうすぐ現婚約者である第二王子に婚約破棄されるはずの運命の悪役令嬢なのである……。 *** 「ココ、もしかして最近……」 婚約者である第二王子こと、ハインリヒト殿下とは三ヶ月に1回お茶会をしている。政略結婚とはいえ、婚約者としての勤めとしてお互いの親睦を深める為らしい。ちなみに私はこの国唯一の公爵令嬢で、第一王子は隣国の王女と婚約しているので自然と第二王子の婚約者になってしまった。いい迷惑だよ、本当に。 そんな三ヶ月ぶりのハインリヒト殿下はお茶を飲みながらわたしを見つめ、にっこりと微笑みながら可愛らしく首を傾げた。 「胸が大きくなった?ざっと見てEカップだね」 セクハラ発言である。おい、手をリアルに動かすんじゃない。エアー乳揉みすんな、この金髪碧眼のセクハラ王子。 「……少し太ってしまっただけですわ」 いや、だいぶ太りましたよ。たった三ヶ月でここまで体型が変わったのだから少しどころではないだろう。お付きの侍女なんか私の体型を見てずっと泣いてるからね?というか、胸よりも腹の肉の方がすごいことになっているのに注目するのは胸だけなのか。それでいいのかお前は。でかけりゃいいってもんでもないだろうよ。 「ハインリヒト殿下、こんな太った女なんて嫌でしょう?なんなら今すぐ婚約破棄しましょうか!?さぁ、どうぞ!」 私は腹の肉をばいーん!と揺らし、さりげなく(?)婚約破棄の宣言を促した。ついでに婚約破棄の書類(私の分は署名済み)とペンをさっと相手の手元に押し込めた。相手は第二王子なので、公爵令嬢の私から婚約破棄を言い渡すのはちょっとリスクが高すぎる。できればそっちから「うん、婚約破棄したい」と口にして書類にポンとハンコを押してくれればよいのだが……。 「ふくよかな女性って、子供をたくさん産んでくれそうだよね。王家としてはとても魅力的だよ」 にこにこと死刑宣告をされてしまった。……ような気分だ。 おのれ、きさま……前に会った時は「スリムな人っていいよね」って言ったやんけ!ほっそりスリム体型の私をベタ誉めしとったやんかーーーーいっ!だから嫌われるためには正反対の姿になれば良いと、頑張ってデブ活したのに!贅肉を溜め込んだのにぃ!!コロコロと意見を変えやがって……ちくしょう! 「……ハインリヒト殿下……」 なんだかよくわからんが殿下に完敗した私は、地に膝をつきたくなる衝動を我慢して声を絞り出した。(半泣き) 「……婚約破棄しましょうよぉー」 涙を浮かべて訴えたが、その訴えはハインリヒト殿下の「やだ」と言う笑顔で一蹴されてしまうのだった。 ちくしょう! 実はここは乙女ゲームの世界で、もう少ししたら殿下はヒロインと出会って“運命の出会いイベント”を果たした挙げ句に、だんだん私が邪魔になって冤罪を着せて断罪してさらには死刑にしようとするんです!だからそんな大事になる前に婚約破棄して身軽になりましょう!……って言えたらどんなに楽だろうか。 まだ死にたくないよー!
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