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 偶然にも、仕事場が通っていた高校の近くであるのはありがたいが、周りからは地元愛が強すぎると馬鹿にされるのが癪である。俺だってもっと大都会で働きたかったが、少し前に体調を崩してしまったから仕方がない。今は実家で両親と三人で暮らしている。今の会社は父の友人が経営している倉庫で、俺はアルバイトとして雇われている。時給はそこそこだが、実家暮らしで金を浪費するような娯楽もない街だから金もかからず、実家暮らしともあって貯金は溜まっていく一方だった。 「ただいま」  家に帰ると、スパイシーな香りが充満している。これは間違いなくカレーだ。 「あら、おかえり。雨大丈夫だった?」  エプロンをつけた母さんが出迎えてくれた。 「ああ。大丈夫」 「シャワー浴びちゃえば?」 「そうするよ」  俺は自室に戻って着替えを用意した後で、オンボロな風呂場でシャワーを浴びる。随分と年季が入ってしまったのか、シャワーヘッドも黄ばんでしまっている。もう時期替えどきかもしれない。 「ピンク色の馬か」  俺は想先ほど目にしてしまった、想像もつかないワードが頭にこびりついて離れなかった。小学校のときに体操着にカレーをつけてしまって取れなくなったような感覚だ。  それに、ピンク色の馬を拾っていったいどうすればいいのだろうか。交番にでも届ければいいのか。それで一つ徳を積めたと自己満足しておしまいってわけか。そいつは随分とちっぽけなご褒美だ。そんなもの、未来なんておぼろげな空間の中で、一つの事象にすらならない小さな出来事でしかない。  俺はピンク色の馬が明日を彩るアイテムになる可能性を見いだせず、だけど提示されてしまった違和感を打ち消すこともできず、風呂場の中で一人わけもわからず苦悩を抱えてしまった。  
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