玲緒の提案

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玲緒の提案

「『あ、あのね! あたし……』いや、なんか違うな……」  みんなが帰って静まり返ったホールの中、あたしは最終下校時間までたった一人自主練を続けていた。  最近はずっとあたしが演技を止めているから少しでも演技を良くしないと、と思った結果だった。  でも、この冒頭の告白シーンだけなんかしっくりこない。  そりゃあ、告白したことがないから実際どのぐらい緊張するかはわからない。  でも恋愛系のドラマは見たことがある。  その記憶を辿っていきながら、あれやこれやと考えているけど一向にハマんない。 「あれっ、相原さん? 遅くまで偉いね、でももう鍵閉めちゃうから今日は終わりにしたら?」  声がして、ドアの方を見る。  そこにはドアからひょっこりと顔を出した玲緒先輩がいた。 「玲緒先輩……。すみません、すぐに片付けますね」  あたしは玲緒先輩にそれだけ伝えると、急いで帰る支度をした。 「最近、頑張ってるね。いつもそこで自主練してるでしょ」  玲緒先輩の言葉にビクッと肩が跳ねる。  そっか、見てたんだ。  あたしの努力を――。 「はい、みんなの足を引っ張りたくないんで」 「よかったら、文化祭までマンツーマンレッスンでもする?」 「へっ?」  玲緒先輩の驚きの言葉で思わず、変な声が出てしまった。 「で、でも……先輩も自分の役で忙しいんじゃ……」 「そんなことないよ、セリフも全部覚えてるし。それに俺と相原さんが一緒に出る幕って多いじゃん? だったら一緒にできたらなぁって思っただけなんだけど、どうかな……?」  玲緒先輩がコテッと首をかしげる。  文化祭までの一週間、時間もない。  それに……玲緒先輩と二人きりの時間が過ごせるのがなによりも嬉しい。  いつもは部活のときでしか見ないし……。  あたしはその提案に首を縦に振らない理由はなかった。  
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