真剣な目

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真剣な目

 その後も私と玲緒先輩はマンツーマンレッスンを続け一日、また一日と刻一刻と文化祭までの日にちがカウントダウンしていく。  そしてついに、文化祭前日になった。  あたしと玲緒先輩のマンツーマンレッスンも最後の日となった。  部活の後、少し休憩してから私はいつもどおりにホールに入った。  ホールの中はもう完全に文化祭モードになっている。  ちょっとした舞台、お客さんが座るためのパイプ椅子にきれいな夕焼けの日差しが差し込んでいる。  それを見てあたしは今日で玲緒先輩とのマンツーマンレッスンが終わることに寂しさを感じた。 「玲緒先輩はあたしのこと、好きなのかな……?」  そう自信なさげな自分の声がホールの中に響いた。  それから少ししてから玲緒先輩がホールにやってきた。 「今日もよろしくおねがいします」  あたしはペコリと玲緒先輩に頭を下げる。 「うん、今日がマンツーマンレッスンの最終日だね。最後だし張り切って頑張ろう、こちらこそよろしくね」  その言葉で最後のマンツーマンレッスンが始まった。  そしていつものように刻一刻と最終下校時間が迫っていく。  今日で最後、その覚悟を胸に練習に励んだ。  そして――。 「うん、ほぼほぼ完璧だよ。それじゃ最後に一回だけ通して終わりにしようか」 「はい……!」  玲緒先輩の言葉にあたしはコクリとうなずいた。  うなずいたけど、内心は少しさみしい。  ちょっとした日常になっていたこの時間も今日で終わりになってしまうから。 「それじゃ、行くよー?」  そんなあたしの気持ちも知らなそうな玲緒先輩が私に声をかける。 「はい、よろしくおねがいします……!」  練習、最後の演技……。  絶対に最高の演技で決めて見せる――! 「それじゃあ、よーい、はじめっ!」  玲緒先輩はいつものように合図を出す。  合図とほぼ同時に私は最初のセリフを発する準備をした。 「それで話って何?」 「あ、あのね……あたし、あ、あなたのことが好きです。もしよかったら付き合ってもらえませんか?」  今までこのセリフを言ってきた中で一番良かった感じがする……!  この調子で残りのセリフも全部頑張ろう……!  そう心の中で意気込んだ、そのときだった。 「俺も、あなたのことが好きです。もしよかったら、俺と付き合ってください」 「えっ……?」  あたしは玲緒先輩の言葉に驚きのあまり、ビシッと固まってしまう。  あたしが告白した後の言葉は玲緒先輩が私を振る言葉なはずだ。  でも、今なんて言った?  好きだって言ったよね……?  ここにおいて多分セリフを間違えるなんてありえないはず。 「玲緒先輩……?」  あたしはどうしようもできなくなって玲緒先輩の顔を覗き込む。  その玲緒先輩の耳はほんの少しだけだったが赤く染まっていた。 「玲緒先輩、もしかして本当に……」 「今、このタイミングで本気じゃないほうがおかしいだろ」  玲緒先輩にするどいツッコミを受けて、私は黙ってしまう。  玲緒先輩も、また黙ってしまう。  その静寂を破ったのは玲緒先輩のほうだった。 「ゴメン、さっき相原さんの独り言を聞いちゃった」 「っ!?」  それって……! 「もしかして聞いちゃったんですか」 「あぁ、聞いちゃって出るに出れなくなっちゃって。わざと少し遅れてからこっちに来た。別に盗み聞きするつもりはなくて……ゴメン」  そう言って玲緒先輩はうつむいた。  あたしは何も言えなくなってしまってまた黙ってしまう。  そして玲緒先輩もまた黙る。  この静寂を破ったのはまたしても玲緒先輩だった。 「俺は本気だからな」  玲緒先輩は私の目をしっかり見て言う。  それは演技をしているときの真剣な目。  あの時と全く同じ目をしていた。  心臓の音がドクドクッとうるさくなっていく。  息遣いが段々と荒くなっていく。  体中がだんだんと熱くなっていく。  あぁ、あたしは本当に玲緒先輩のことが好きなんだ。  今、この瞬間気づいた。 「相原さん……?」  玲緒先輩がほんの少しだけ首を傾ける。  でもあの真剣な目は変わっていない。  この告白に対しての答えは一つ。  あたしは玲緒先輩をそっと抱きしめて、耳元で玲緒先輩の告白の答えを返した。  
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