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その夜は静かだった。こうしている間にも、雪はしんしんと降り積もる……。
部屋にけたたましい洋楽ロックが鳴った。スマホから発せられたそのナンバーは、大学受験に向かう僕を鼓舞するべく選んだものだ。音楽を止めると、静寂が訪れた。カーテンを開けると、窓の外には雪。しかも、見た目では5㎝ほど積もっている。
階段をすごい勢いで降りると、リビングで待ち構えていた母に、
「今日は雪が積もってるから、早く家を出なさいよ」
と言われてしまった。
「分かってるよ、ちゃんと計画立ててるから」
ぼそりと言って、朝食に出されたご飯と味噌汁、玉子焼きをかきこむ。胃の消化に優しいいつもの食事だ。
無口な父が運転する車に乗るのは苦手だ。今時珍しい詰襟の制服を着た僕は助手席に座り、鞄を抱えている。カーラジオからは、受験生を鼓舞するDJの曲紹介に乗せて、応援歌的なものが流れている。
「頑張れ」
「やればできる!」
そんな歌詞を普段はうざったく感じているはずなのに、今日に限っては僕の背中を押してくれるように思えた。
雪道をゆっくりと走った車は駅に到着した。
「ありがとう」
父にそう告げると、
「頑張れよ」
とぼそっと呟いた。
電車の中では、好きな洋楽ロックのプレイリストを聴きながら、アプリで英単語や日本史の一問一答をしていった。そんな中でも車窓からの景色は一面の銀世界。尚も雪が降り積もる。
僕は横殴りに降る雪を恨めしく思いながら、受験のことに集中した。試験会場に遅れないように行くために、道順を確認し、塾でもらったお守りをギュッと握りしめる。
電車は駅のホームに静かに滑りこんだ。雪の降るホームはわずかなしゃべり声も積もった雪が吸い込んでしまいそうなくらいの静寂だった。僕はその中でも前を向いて、しっかりとした歩調で歩いて行く。雪が積もっていようと関係ない。ふと、空を見上げると雲の切れ間から陽光が差してきた。まるで、僕の前途を照らすように。
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