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あふれる愛情に……
――君を独り占めできることが幸せで、甘やかしの加減を見失ってしまう――
「うわぁ……お部屋に露天風呂がある旅館なんて初めて来ました。ぁ、柚子かな、湯船に浮かんでる」
「雪見温泉になるなんて、風流でいいねぇ」
客室に通されると広いガラス扉の向こうに広がる冬の温泉ならではの景色をみて、依春が感嘆の声をあげる。
丁度、雪が降ったために石造りの露天風呂は、白銀の真綿に囲まれて趣が漂う。
依春の大学の冬休みに小旅行で訪れた温泉宿は、客室に露天風呂がついていて、外からの喧騒を気にせずにゆったりとした時間を過ごすことができる。
「……ほんとに小鳥遊さんこんな素敵なところ来なくてよかったんですかね?」
「この宿には、可愛いお嬢ちゃんたちは連れて来れないからって譲ってくれたんだ。2人でゆっくりしておいでってさ」
「そうか、ホテルに預けることになっちゃいますもんね。……なら、帰りに小鳥遊さんとお嬢さんたちにお土産買わなくちゃ。可愛い雑貨屋さんもあったから」
そうだねと、依春に返事をするとホッしたような微笑みが返ってくる。
ペア宿泊券を譲ってくれた小鳥遊への気配りが依春らしいと思う。
一方で、温泉街を散策している間も、小鳥遊のことを考えていたのかなとやきもちが沸いたのは胸にしまっておく。
時たまに芽吹く強い独占欲。
Domとして備わっている本能だとしても、依春の前ではもっと余裕をもっていたいのに……。
「夕飯を食べたら、温泉に浸かろう、一緒に。季節によって湯船に浮べる花や果物が変わるんだって」
「はい。……って、一緒に?!」
キャリーケースから、着替えを出していた依春がびゃっと顔を上げ、持ち上げた服がぱさりと落ちる。
そのまま細い指先は、テラスの風流な露天風呂に向けられた。
割とさらっと流してくれるかなと思ったのに残念……気づかれてしまった。
少し前までは、うまいこと言いくるめれば(言い方が悪いけど)、絆されてspaceに入ってとろとろになるまですんなりいけたのに……。
リアムの策に引っかからないようにまで慣れた依春がいるのは嬉しい。と同時に、これからまた別な手を考えなくちゃと、あらぬ方に意欲が燃える。
けれど、ここで引きさがるほど、俺は甘くないし諦めがよくない。
依春限定で発揮されるこの嗜虐心は、依春がSubで自分がDomだからじゃないと思う。
「そう、一緒に。別におかしくないでしょう。客室に露天風呂がついているだけで、そうじゃなければ共用の露天風呂に一緒に入っていたわけだし」
「えっと……まぁ、たしかに……?」
とんだ屁理屈を述べながら、少し寂しい雰囲気をだすと、俺に甘い依春は引っかかりを感じながらも同意してくれる。
もちろん共用の露天風呂になんか行かせないけれど……。
「それとも……依春は一緒に入るとなにか恥ずかしいこと考えちゃった?」
「なっ?!……ちが……、な、なんでもないですけどっ……一緒に入るだけですからねっ」
「楽しみだね」
真っ赤にして慌てて否定していても、2人でいることに期待しているのは丸わかりで可愛い。
一緒に入るだけで終わるはずがないのに、それを予防線にしようとするのは逆効果なのを、依春はまだ知らない。
*****
一緒に湯船に使って「ただ入るだけ」なんて話は、細い肩や白い肌に散る日頃のケアの花弁を目の前にしたら据え膳もいいところだ。
依春に対して抑制の効かない俺は、据え膳を前にしてなにもしない訳もなく、いろいろ理由をつけて美味しくいただくことにしたのは言うまでもない。
「一緒に入るだけって言ったのに」という反論は、「何もしないって約束はしてないよ」と依春を絆す笑顔と甘やかな声音で一蹴した。
魂のペアである依春は、プレイに持ち込まず軽い戯れだけでも充分にSpaceへと導けるから、身体が温まり、蕩けたところで寝室へ運ぶ。
「っ……リアムさっ……まって……」
快楽に流された甘い吐息が耳許をくすぐる。
着乱れた藍色の浴衣から覗くしっとりときめの細かな肌は、所々にリアムに新しい花弁を散らされて、雪の中に咲く椿みたいだなと勝手なことを思う。
目の前のアメジストの瞳がきらきらと愛欲に浸されているのも、リアムのせいなのだから、少しは反省するか加減をしなくちゃいけないのに……。
依春の身体も表情も小さな仕草さえも、すべて視界におさめて、うっとりと眺める。
「依春、つらくなっちゃった?」
つらいのは、痛いとか苦痛からではなく、快楽にじわじわと支配された身体がおぼつかなくなってきているのはわかっていて聞く。
なんてずるいんだろう。
それでも依春の後ろのぬかるみの最奥に向けて、欲望を浸潤させていくのはやめない。
「んぅっ〜、ちが……そうじゃなくって……」
「ならいいよね?依春のここ、たくさん可愛がったから、やわらかくてあったかいよ……」
くぷっと、わざと内壁を擦るように腰を進めると、甘ったるい蕩けた嬌声があがった。
露天風呂での戯れから、解された身体はほんの少しの刺激も拾い、きゅっと収斂する。
「んぁっ、ゃ、うごかな、で……」
向かい合ったままの依春の表情を覗くと、澄みわたるアメジストの輝きが一層強くなる。
喜びや幸せを感じた時にみせる輝きは、美しい。
あと少しでSubが幸福感に身を委ねるSpaceに入る印でもある。
いつもなら素直に流されてくれるのに、今日は依春から小さな抵抗が返ってくるなんて珍しい。
なんにしても依春がプレイ中に気持ちを出してくれるのは、なかなかにないことだから嬉しい。
「どうしてほしい?気持ちよくないならやめるよ。依春、Say。おしえて」
わざわざコマンドを使わなくてもSpace間際まで迫った依春は、理性がふわふわとしているから必要ないけれど。
細い腰を抑えて、とんっと境がないほどに肌を触れ合わせると、縋るように胸元の生地が握り締められた。
「ひんぅっ〜、きもちいいからおかしくなるっ……すぺーす……はいったら……だめだから……うごかないでぇ」
「Spaceに入りたくないから、動かないでほしいの?」
こくこくと首を縦に振る姿は健気すぎる。
「んっ、はいったら、わけわからなくなるから……りあむさんに……さいごまでっ……」
飛ばないように、また理性を手放さないように……。
リアムの声と熱を感じていたいのに、いつも最後まで意識を保っていられなくなるから。
途切れ途切れに紡がれる言葉が、リアムを全身で求めていることが伝わってくるから、ぐっと中のものが質量を増す。
今すぐにでもこの可愛い恋人を食べたい衝動に駆られるけれど、普段プレイに関して欲を言わない依春の気持ちを優先させなくてはいけない。
「ん。じゃぁ、動かないでいるから、つらくなったら言ってね」
今、依春の中にいるだけで生殺しな状態のリアムと無意識に収斂を繰り返している依春のどちらが先につらくなるのかなと頭の片隅で思う。
きゅっと抱きついてくる依春の首筋に鼻先をうめて、しっとりと濡れた肌から香る甘さを堪能する。
甘ったるい肌をもっと味わっていたくて、首筋を吸ったり、腹部から指先を胸元へ巡らせてツンと主張した二対の蕾をきゅっと摘んだりを繰り返していく。
「っ……んゃっ……そこっ」
胸の蕾を摘んだ時に、きゅっと中が締まるのを気づかせないように顔を上げた依春にコマンドを投げる。
「ねぇ、依春、動かないでいるからKissして」
「ん、ぼくも……したい……」
寄せられたキスは、おずおずと触れてから、こちらの柔らかさと熱を確かめるように舌をはわせてくる。
いつもの遠慮がちな依春からのキスは、初々しさがたまらなく愛おしい。
息をつこうと離れる唇を逃がさないよう、舌をあわいに侵入させるとちゅっと舌先を吸う。
舌先に与える刺激を真似るように、胸の蕾をきゅっと摘み、指の腹でくっと擦るのをやめない。
「ひゃぅっ……ぁ、んぅ〜っ」
同時に与えられる刺激が思ったより強かったのか、ひくひくと依春の腰が震える。
あと少し……。
きゅんきゅんと中の昂りの脈を一つ一つ感じようとするように肉壁の蠢動が強くなる。
「っ……腰が揺れてる……抑えていてあげようか?」
快楽に流されまいとする依春に、優しいようでいて追い詰めるお手伝いを申し出る。
腰が揺れていることを指摘されて羞恥に染まった頬は可愛らしい。おかげで、本意を悟られなくてすんだけど……。
待たされた嗜虐心は、獲物を快楽の渦へと追い込んでいく。
ぐっと片手で細い腰を固定すると、桃色に濡れた唇をかぷりと食む。
舌の根元をくすぐり、頬粘膜の甘さを確認するように蹂躙する。
いつまでも舐めていたい甘さ。
咥内の快楽を拾うのと同時に、昂りを咥えこんだままの肉洞の収斂が速さをましていく。
その昂りのタイミングを見計らうように、依春が1番弱い舌先を甘く食むと、じゅっと吸い上げる。
「んぅっ?!……ゃぁ、ぁっ……んぅ〜〜〜っ!」
中の熱をぎゅうっと食いしめられたかと思うと、くたりと依春の身体から力が抜けていく。
すぐに息が整わないままの依春がひゅっと息を飲む。
「っ……ぇ、ぁ……?なに、これ……ひぅ……出てないのに、きもちいっ……」
ぴくぴくと痙攣する腰は、まだ快楽の波から降りられないようで、震えた声が混乱をもらす。
お互いの間をあけて覗くと、ふるりと屹立したままの依春の熱からはいつもの飛沫が見当たらない。
「キスしていただけで、中がうねっていたね。気持ちよくて中だけでイッちゃった?」
ツっと指先で先端に零れる蜜を掬うと、くりくりと塗り伸ばす。
「んぁっ……だ、め、いま、さわらないで……。おかしい……ぁ、ずっと……きもちいいのおわらないっ……」
その刺激にも素直に反応をみせる依春の身体は、登りきったまま降りてこられない快楽に泣きが入る。
快楽を拾いつつ、その放出がままならない身体。
「このままだと依春がつらいと思うけど、どうしてほしい?」
もうSpaceに入ったも同然の状態の依春に、「さぁ、もうおちておいで」と手を差し伸べる。
アメジストの輝きがとろりと溶けていく。
「っ……ぁ、おねがい……うごいて……なか……いっぱいに……して」
「仰せのままに……」
とさりとシーツに依春の身体を横たわすと、蕩けた瞳が縋るようにこちらを見つめてくる。
「はやく……ここ……」
繋がったまま自ら脚をかかえて拡げるなんて、煽るにもほとがあるだろう。
はやく熱を開放して欲しくて、いつもは恥ずかしくて言わないことをいうのがSpaceに入った依春が知らない姿。この蕩けながら本能のままに求めてくれる依春の姿もリアムが好きな一面でもある。
「今日の依春は、素直だね。良い子……」
頬を撫でて褒めると、すりと頬を寄せてくるから可愛い。
熟れきった接合部は、リアムのものを頬張って、それでも更に熱と溶けあおうとするかのように縁をひくつかせている。
ずるっと水音を響かせて、括れのぎりぎりまで引き出す。
今にも突き入れたいけれど、我慢……。まだ依春の俺を求める痴態を味わいたいから。
と、じっくりと緩慢な動きで熟した蜜壁を押し開いていく。
「ぁぅ……んっ……な、んで……っ、なか、ぁんぅっ」
いつもと違う泣き所を外した緩慢な抽迭に、腰を掴むリアムの手の項を依春の指先がかりかりとひっかく。
「Spaceに入っている依春を急に攻めたら、すぐにイッちゃって気をやっちゃうかもしれないから」
「ぇ、ぁっ……んゃっ……ちゃんと、奥のほう……とんとん……っ」
「意識は保っていたいんでしょう?……大丈夫。ゆっくり、じっくり奥まで愛してあげる……」
意味を理解してか知らずか、ずるりと中のしこりを擦り上げながら緩慢な動きで抽迭を続ける。
終わらない予告に腕の中の依春の瞳がめいっぱい広がっていく。
驚愕の中に滲む期待と幸福のアメジストの輝き。
依春が測り損ねた俺の愛情は、どこまでも甘くて深くて……優しいようでいて、底知れない快楽としては残酷に聞こえるかもしれない。
*****
「ごめんね、依春。身体は大丈夫?なにか飲みたいものはない?」
リアムは、こんもりとした布団に声をかける。
部屋の露天風呂に積もった雪は、朝日を反射して眩しく、真っ白い羽毛布団をあたたかく照らす。
甘やかし加減が振り切れてしまい、依春の身体に負担をかけてしまったと気づいた時にはすでに遅かった。くったりとした彼の身体を清めて、布団に入れた時には日付をまたいでいて……。
目覚めた依春は、ぼんやりした意識がはっきりしてきて、昨夜の情事を思い出したのだろう。
ぶわっと両眼に涙を浮かべると、こうして布団に潜り込んでしまっている。
「痛いところがあるなら教えて。ごめん、加減ができなかった……もう、しないから許して……」
「……ない……」
「……?」
もぞもぞと布団から顔だけ出てきた依春は、聞き取れなかった部分を繰り返してくれる。
「痛いところは、ないけど……。僕が意識を飛ばしちゃったらいつもと同じじゃないですか……。自分がなにを言ったのかも覚えてないくらいなのに」
あなたとの言葉はきちんと覚えていたいのに。
続いた言葉はどこまでも依春らしくて、暴走しがちな俺にはもったいないくらいのもの。
「怒ってる……?」
「ん、少しだけ……。Spaceに入っちゃうと前後不覚になっちゃうとこ」
それは、自分に怒ってるんじゃないか?と問いたくなるが、依春の自己責任の強さがここでも発揮される。
けれど、今回は俺が怒られるべきことだ。
「……途中から俺がそうさせなくしたんだから、そこは俺に怒るところだと思うよ」
「……あと、これじゃすぐに散策に行けないから、カフェ巡りと雑貨屋さんめぐりができません」
次にでてきた内容は、しっかり俺に向けてのものだ。
ぁぁ、来る前からカフェのスイーツや雑貨屋での買い物を楽しみにしていたんだった……。
依春にしては、珍しく軽く怒気を含んだ声音。
彼がリアムに対して怒ることなんて初めてで、深く反省すると同時に嬉しさが込み上げてくる。
「あまりにも依春の俺と一緒にって気持ちが嬉しくて、つい……。これからは、もう少しセーブするって誓うよ」
「ん、そうしてください。……僕ももう少しリアムさんの大好きに応えられるように……なにかをがんばります……」
布団の端から出てきた手がきゅっとリアムの指先に絡む。
与えられることが一方的では、重すぎるからら、重すぎて片方がくずれないように、お互いに歩み寄って与えあえたらいい。
君のすべてを独り占めしたくて、わがままな欲望は暴走してしまいそうになる。
だから、たまに叱って止めてほしい。
溢れすぎて溺れないように……。
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