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「何か、大事になってしまって申し訳ありません」
彼の姿が見えなくなると、シャーロットがおずおずと恐縮したように謝罪した。しかしリチャードはふっとやわらかく目を細めて言う。
「シャーロットは何も悪くないよ」
悪いのはあの男で、シャーロットはただ自分の身を守っただけである。そうしなければもっと触られていたかもしれないし、つきまとわれていたかもしれない。やりすぎということは断じてない。
そして結果的にだが、良からぬことを考える貴族連中への牽制にもなったと思う。この騒動はすぐ社交界に知れ渡るだろうし、軽い気持ちでシャーロットに手を出そうとする輩はいなくなるはずだ。
「帰ろうか」
「はい」
いろいろと慣れないことばかりでさすがに疲れたのだろう。シャーロットはほっとしたようにそう返事をした。そしてアーサーたちのいるほうにくるりと向きなおると、ドレスをつまんで軽く膝を折る。
「皆さん、ありがとうございました」
それは形式的なものではなく心からの言葉に違いない。
「元気でな」
「お幸せにね」
「はい」
両親から声をかけられると無邪気な笑顔で応えた。
二人は明日の午前中には帰路につくことになっているため、ここでお別れとなる。だが彼らが王都に来る機会はこれからもあるはずなので、きっとそう遠くないうちに再会できるだろう。
「またお茶会をしましょう」
「ぜひ」
ロゼリアの誘いにはうれしそうに声をはずませた。
どうやら思った以上に親しくなっていたらしい。シャーロットが一方的に懐いているのではなく、ロゼリアも好意を持っているようだ。さきほどわざわざ援護したことからもそれは窺える。
「行きましょう」
挨拶を終えると、シャーロットは身を翻してにっこりと笑う。
それだけで胸が高鳴ってしまうものの顔には出さない。腕を差し出し、彼女をエスコートしつつ堂々とした歩みで王宮をあとにする。時折、とろけるような甘いまなざしをそっと隣に向けながら——。
この後、リチャードの本命はシャーロットなのかアーサーなのかで論争が起こり、恋愛ゴシップ好きの連中が大いに盛り上がることになるのだが、帰路についた二人は知るよしもなかった。
<「公爵家の次期当主は最愛の妻をエスコートしたい」了>
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