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「お待たせしました」
仕事や同僚のことなどについて閑談していると、執事姿の男性店員が紅茶と焼き菓子を持ってきた。流れるような美しい所作でローテーブルに並べていき、一礼して下がる。
「まずは紅茶を飲んでくれ」
「……いただきます」
期待をこめた目でリチャードが見つめている。アーサーは落ち着かない気持ちになりながらも、ティーカップを手に取った。
これは——。
ふわりと鼻をくすぐるさわやかな香りにハッとした。ティーカップに顔を近づけてあらためてその香りを確認し、口をつける。
「……ベルガモットですね」
「さすがだな」
正解だったようで、リチャードがそう応じてニッと口元を上げる。
最近、花の香りをつけたフレーバードティーが流行っているが、ベルガモットの香りは聞いたことがなかった。自国で栽培していないこともあって高価なのだ。それを紅茶に使うだなんて贅沢なことをするものだと驚く。だが——。
「あなたが勧めるだけのことはありますね。紅茶とうまく調和した上品でナチュラルな香り、あまり癖がなく紅茶のコクを感じられる味。これほど上質のフレーバードティーは初めてです」
「だろう?」
彼はうれしそうにパッと顔をかがやかせて、前のめりになる。
「東方の小国で最近作られるようになったものでさ。ここのオーナーはもともと貿易関係の仕事をしていて、その伝手で輸入しているらしくて。この国ではいまのところここでしか扱っていないんだ」
そう語ると、彼自身もようやく自分の紅茶に口をつけて、あらためて満足そうな笑みを浮かべた。
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