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紅茶が尽きたころ、リチャードがふいに手を上げて執事姿の男性店員を呼んだ。何かを頼んだようで、いったん奥に下がった店員がすぐに紙袋を携えて戻ってきた。
「これ、おまえに」
「えっ」
リチャードはその紙袋を受け取ったかと思うと、アーサーに差し出した。
いささか困惑しながら紙袋の中を覗いてみたところ、茶葉の詰まった小瓶が三つ入っていた。かすかに鼻をくすぐる香りから察するに、これもベルガモットのフレーバードティーなのだろう。
「オーナーに無理を言って分けてもらったんだ」
「あの……このような貴重なものをいただく理由がないのですが」
「おまえ、あいかわらず堅いよなぁ。水くさいこと言うなよ」
リチャードが眉をひそめて言う。
だが、彼の恋心に応じる気はないのに、素知らぬ顔で高価なものをもらうのはやはり抵抗があった。だからといってせっかく用意してくれたものを断るのも悪い気がして、目を伏せて逡巡する。
「……わかりました。これはありがたくいただくことにします。領地に帰ったら御礼をかねて何かおみやげを買ってきましょう」
「ああ」
うれしそうに彼の顔がほころんだ。こんな無防備な笑みを他のひとに向けたところは見たことがない。何ともいえない複雑な気持ちになりながら曖昧に目をそらす。
「あ、シャーロットの写真も頼むな」
「またですか?」
「俺にとっては特別な子なんだよ」
自分が救出した子ということで本当に特別に思っているのかもしれないし、アーサーの気を惹くためにそう言っているだけかもしれないが——。
「わかりました」
いずれにしても、恩人である彼が望むのなら写真を渡すことに異存はなかった。
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