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公爵家の次期当主は愛する新妻とデートしたい
結婚式のあと、ウィンザー公爵家の若夫妻となったリチャードとシャーロットは、しばらく領地で過ごしてから王都のタウンハウスに戻った。この地で、この家で、これから二人の新たな日常が始まるのだ——。
「数日したら非番だから、そのときは二人で街に遊びに行こう」
結婚休暇を終え、久しぶりに騎士団の仕事に出かけようというところで、リチャードは見送りのシャーロットにそう言った。唐突だったせいか、彼女はすこし驚いたように目をぱちくりとさせる。
「お仕事のほうはよろしいのですか?」
「ああ……」
タウンハウスに戻ってからの三日間は、不在時にたまった書類などを処理するのに必死で、とても遊びに行くどころではなかった。だが、もうあらかた片付いたので一日くらいなら問題ない。
「急ぎの面倒な案件さえ来なければな」
「ふふっ、では祈っておきますね」
シャーロットの顔にふわりと笑みが浮かぶ。
クッ——あまりの愛らしさにリチャードは心を射抜かれた。もう騎士団になんか行きたくない。いますぐ一緒に街で遊びたい。もしくは部屋にこもって戯れたい。けれど、そうはいかないことくらいわかっている。
「……行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
にっこりとするシャーロットにつられるように微笑み返し、そのままじっと見つめていると、彼女の後ろに控えていた執事がわざとらしく咳払いした。
「わかってるよ」
リチャードは彼女の頬に口づけ、ひどく名残惜しく思いながらも家をあとにした。
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