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「ねえ、シャーロット」
「なぁに?」
気の抜けた返事をして、彼女はそよ風に誘われるように緑色の瞳を閉じた。その横顔を見つめたまま、アレックスは一呼吸おいてそっと話をつづける。
「いつもこの木に登って何を見てるの?」
それは一年ほど前から気になっていたことだった。
彼女はひとりのときによくこの木に登って遠くを見ている。以前はただ見晴らしのいい景色を眺めているだけかと思っていたが、ときどき何かせつなげな顔をしていることに気付いたのだ。
もっとも彼女にはそのあたりの自覚はなかったのかもしれない。不思議そうにきょとんとして振り向く。アレックスと目が合うとふっとやわらかい表情で微笑み、あらためて大樹を見やりながら言う。
「登ってみたらわかるわ」
「僕が苦手なの知ってるよね?」
「ふふっ」
アレックスはじとりと恨めしげに横目で睨み、口をとがらせる。
彼女は幼いころからドレスを着たままするすると登っていた。一方で自分は高いところが苦手なので登ろうとさえしなかった。彼女に誘われるたび、ひどく情けなく思いながらも無理だと断っていたのだ。
けれど、すこしまえに一念発起してひそかに練習を始めていた。いつか彼女と一緒に木に登りたくて、そして見直してもらいたくて。ただ、これほど大きな木にはまだ一度も挑戦したことがない——。
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