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「どうしたの?」
アレックスが無言のまま立ち上がって大樹を見上げると、彼女はつられるように体を起こしてそう尋ねた。しかしアレックスは目標の場所を見据えたまま振り返らない。
「登ってみる」
「えっ……大丈夫なの?」
「たぶん」
そう答えると、大きな幹に手をかけて登りはじめる。
怖くないわけではないが、それよりも彼女のことを知りたいという気持ちが上回った。どこに手をかけようか足をかけようかと考えながら上を目指していく。
「気をつけてね」
ハラハラと心配そうな彼女の声。
しかし登ることに必死になっているため返事をする余裕はない。やがてどうにか彼女が座っていたところまでたどり着くと、ほっと安堵の息をついて腰掛ける。
「ひっ」
何気なく下を見たら、その高さに血の気が引いてあわてて顔を上げた。
ただ真下にさえ目を向けなければわりと大丈夫そうで、ぐるりと遠くの景色を確認していく。そこは高台ということもあってとても見晴らしがよかった。
「…………」
比較的近いところには木々や草などの緑が多く、その向こうには街、集落、畑などがあり、さらに遠くには山々、そしてかすかながら海も見える。だが、彼女が何を見ていたのかまでは——。
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