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「ごめんね……わたしの結婚相手はお父さまが決めるの。縁を結ぶことで利益になるようなひとを選ぶと思うわ。貴族の結婚ってそういうものだから」
「…………」
彼女が申し訳なさそうに微笑を浮かべるのを見て、アレックスは呆然とする。
忘れていたが、言われてみればシャーロットが生まれたのは由緒ある伯爵家だ。貴族の結婚は親が決めるのが普通だとか何とか、パブリックスクールの同級生が話しているのを聞いたことはある。
「で、でも、おじさんならシャーロットの幸せを一番に考えるんじゃないかな」
「どうかしら……まあ、どちらにしてもアレックスを相手に選ぶことはないわね」
「え、なんで?」
わけがわからず聞き返すが、彼女は前を向いたまま何でもないかのように答える。
「アレックスは貴族じゃないでしょう?」
「貴族じゃないとダメなの?」
「貴族の結婚ってそういうものだから」
そういう決まりならアレックスにはどうしようもない。
一瞬、駆け落ちでもすればいいのではないかと思ったが、それでは両親を困らせてしまうので本末転倒である。他にどうすればいいのかはまったく思い浮かばない。
「ありがとう、気にかけてくれてうれしかった」
「うん……」
結局、ただ気にかけることしかできなかった。
自分の不甲斐なさにうなだれるが、そのときふと気付く。そもそも彼女は結婚さえすれば外に出られるのではないか。相手がアレックスでなくても。まともなひとなら妻を閉じ込めておこうとは思わないだろう。
バカだな——。
自分のしたことが一気に恥ずかしくなる。
ただ、いつか彼女の望みが叶うのであればよかったと思う。理解あるひとと結婚して、街にも遊びに行けて、ずっと幸せに暮らしてくれたら言うことはない。できれば自分が幸せにしたかったけれど。
「ね、カーディフの街のことを聞かせて?」
ふいに彼女が仕切りなおすように声をはずませて、覗き込んでくる。
その雰囲気につられてアレックスも表情が緩んでしまった。こくりと頷き、尋ねられるまま街で見聞きしたことをあれこれと話していく。胸を苛んでいたせつなさはそっと奥にしまいこんで。
<番外編「騎士志望の少年はいとこの少女を幸せにしたい」了>
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