たった一言を、君に

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♢♢♢ 六月に入った。 相変わらず佑真はクラスの人気者だった。それだけではなく勉強もできるらしい。 つい最近行われたテストでは学年で一番だったようだ。  そんな中、佑真とゆきが一緒に登校している姿を他の生徒が目にする機会が増えた。そのせいでいつの間にか、“付き合っているのでは”という噂が流れるようになる。  そんな事実はないし、完全な片思いなのに佑真も困っているのでは、と思うようになった。  昼休み、いつものように自分の机でお弁当を食べ終わると、隣の席の佑真に友人たちが集まってくる。これもいつもの光景だ。彼の周りには普段から人が絶えない。  人柄もあるのかもしれない。誰にでも優しく、そして平等に接する彼に嫌われる要素はゼロだ。 「なぁ、お前さ、最近彼女出来たんじゃないかって噂あるけどほんと?」 別に聞き耳を立てているわけではなかった。  ただ“彼女”というワードに反応してむしろ聞きたくないのに鼓膜に強制的に張り付いてくる。その場で耳を塞ぎたくなった。 「彼女?いないけど」 「あ!わかった。小倉さんと一緒に登校してるからじゃね?小倉さんのこと彼女だと思われてる」 コソコソとゆきの名前を口にした友人には悪気はないのだろう。しかし、その言葉はゆきにまでハッキリと聞こえていた。 (…迷惑だよね)   彼は誰にでも優しくて、いい人だ。ゆきにだけ特別というわけではないし、そこを好きになった。けれど、“彼女だと思われている”ということは佑真に迷惑をかけているということだ。  ゆきは立ち上がって教室を出た。 わかってはいても、聞きたくなかった。佑真が困ったように「彼女じゃない」と答えているのが脳裏に浮かぶ。  恋はとても、難しい―…。
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